細胞工学「研コミュ白書」UJA記事の紹介

細胞工学 Vol.32 No.9 (2013年9月号)掲載の「研コミュ白書」でUJAを取り上げていただきました。以下に掲載記事をご紹介します。

■ はじめに ■

日本,そして世界が大きく変化しつつある今,世界各地の日本人研究者が世界中でつながってアクションを起こすために,2013年3月に初の海外日本人研究者ネットワーク,UJA(United Japanese researcher Abroad)が結成されました.以来,精力的に活動を展開しています.本稿では,UJA結成の経緯からこれまでの活動,そしてこのような「研究コミュニティーをつなぐコミュニティー」が,いかに日本そして世界の学術研究を変えていけるのか.また3年,30年,300年後の世界で,日本はどのような存在になれるのか,我々の取り組みを紹介します.

■ 各地の日本人コミュニティー ■

かつて海外留学で一般に期待された,国際感覚を身につけるとか,新しい考え方や最先端技術の習得などという名目は,日本の研究水準の目覚ましい向上と研究情報のグローバル化によってそれほど大きな意味を持たなくなりつつあります.特に,留学時の語学力や生活環境のストレスなどのハンディも存在することを考えたとき,「それでもあえて海外で研究する」というメリットはどこにあるのでしょうか.またそうやって留学した日本人研究者が,海外各地に日本人コミュニティーを形成するのはどうしてなのでしょうか.せっかく海外留学しているのだから,日本人同士で群れないほうがより現地に溶け込めるし,語学力だって早く上達するのでは,とも考えられるでしょう.その一方で,研究留学では何よりもまず研究で成果を出すこと,世界の檜舞台でキャリアを磨くということが研究者としての生命線です.その過程で我々は,想像以上に様々な壁に遭遇します.そんなとき,苦労や悩みを共有でき,役立つ情報を分かち合い,そして夢を語り合い助け合えるコミュニティーの存在は,研究者人生でかけがえのないものとなります.実際に,我々UJAの活動の一環として行っているアンケートでは,ほとんどの留学経験者が「人脈の形成・ネットワーキングへの参加」が,海外留学で得られる最大の恩恵の1つとして挙げています.

さらに言えば,国際的な競争社会を勝ち抜くための戦略的なネットワーキングは極めて重要であり,それも含めて個人の実力と見なされるのです.例えば中国や韓国,ユダヤ人などの研究者たちは,全米に張り巡らされた強固なネットワークにより,コミュニティー内で高い質と量の情報をやり取りし,互助的なシステムを作ってお互いのキャリアを引き上げ合っています.実際に,彼らはアメリカの研究機関などで数多くのポジションを獲得し,国際的な舞台でも強い存在感を示しています.

■ 日本人コミュニティー交流会からUJA設立へ ■

現在も,全米,そして世界各地で大小の日本人コミュニティーがあります.活動内容は勉強会や交流会,あるいはメーリングリスト,Webサイトを中心とした交流・連絡と様々です.しかし,どこにどのようなコミュニティーがあってどんな活動をしているのか,これまでその実態の包括的な把握は困難で,地域や分野を超えた広範なネットワーキングは行われていませんでした.そんな中,NIH金曜会(本連載第6回)幹事の知り合いを通しての呼びかけと,JSPSワシントンオフィスのサポートのもと,2012年10月に米国東海岸各地のコミュニティーの幹事が一堂に会する機会を得ました.会合では,コミュニティー運営,研究者のキャリア,行政の役割から日本の科学の未来に至るまで,非常にアツい議論が交わされました.さらに,コミュニティーそれぞれにユニークな強みがあり,研究留学とコミュニティー運営における独自のノウハウなどが培われていることが浮き彫りになりました.あるコミュニティーは分野横断的に人を集めて幅広い知識の集約を図り,また別のコミュニティーでは日本やアメリカでアカデミックポジションを獲得したときのノウハウを継承しています.もしこんな研究コミュニティー同士が連携してアメリカ全土で,さらには世界中でつながれば,とてつもない“科学”反応が起こるに違いない.そんな未来像が参加者一同の中を駆け巡りました.世界中の日本人研究者が地域を越えて連帯し,国をも巻き込んで,一丸となって世界を切り拓いていく.頭脳で世界をリードする,明るく力強い日本がきっと実現する.そうしてここにUJAが産声を上げたのです.

■ UJAの活動と使命 ■

もはや漠然と海外に憧れるという時代ではない今,留学で何が得られるのか,有意義な留学にするにはどうすればよいかなどの情報・支援のニーズはより高まっています.さらに留学後のキャリアがどのように開かれているのか,具体的にイメージできなければ,現実的に踏み出すことがためらわれます.しかし,どの国・地域にどれぐらいの日本人研究者がいて,どのような想いを持って研究しているのか,そして彼らの将来はどのようになるのか,このような海外の日本人研究者の実態は非常に断片的にしか伝わっていません.UJAはまず,こういった実態を大規模かつ包括的に把握し,留学を考える人たちへの情報はもちろん,海外留学者自身へのフィードバック,そして政策・行政を担当する方々へ伝え,日本の教育・学術研究の推進に反映してもらうべく働きかけたいと考えています.

それを可能にする統合組織UJAを実現するため,以下の3つのミッションを掲げながら,世界各地の日本人研究者のネットワーキングと,互助的組織としてのプラットフォームの構築を目指しています.現在,Webで世界各地と連絡を取り合い,議論しながら組織体制と方針の策定を進め,これに賛同,参加していただけるコミュニティーを増やしています.

      1. 留学を考える人へ情報・支援を提供する窓口の整備
      2. 日本・国際舞台において活躍し続けるための相互支援とキャリアパスの透明化
      3. 教育・科学技術行政機関との情報交換および連携

【提携・協力先】

■ IT を基盤にした広範な互助的ネットワーク作り ■

各コミュニティーではWebサイトやFacebookなどのITの活用が広がっています.例えば,「いざよい」(本連載第2回)では,Justin.tvやGoogle Hangoutといった無料のツールを活用して勉強会の模様を同時中継し,世界各地からライブで参加できるようにしています.UJAでは,各地のコミュニティーやその活動をまとめて紹介するWebサイト(http://unijdocs.blogspot.jp)(現在のURLは http://www.uja-info.org/ )を作りました.また,セミナー情報,キャリア支援/人材募集情報などを世界中でシェアする試みを行っています.さらに,興味のある方が直接コンタクトできるシステムを作っています.

ゆくゆくは研究留学のポータルサイト,さらに参加者が直接的に参加交流して自律的に回るソーシャルネットワークとして,世界中の日本人研究者に利用してもらえるサイトの構築が目標です.現在,コミュニティー単位で参加登録してもらうことで新規メンバーの開拓を進めていますが,最終的には個人単位で参加できるシステムの構築を予定しています.

■ キャリアパスの開拓 ■

留学の意義は,その後のキャリアによって担保される部分も大きいでしょう.海外諸国では,研究者のキャリアパスがより多様で,可能性に満ちていることを目の当たりにします.これに対し,日本人研究者はステージが上がるにつれてアカデミア以外の可能性が狭まる傾向があります.一方で今,アカデミアのポストは限られており,留学した全員にその席が確保されているわけではありません.このような留学後のキャリアの不透明感は,留学を躊躇させる大きな要因の1つです.

UJAは,研究者が多様なキャリアパスを具体的にイメージして準備できるような,情報・ノウハウ・接点を継続的に提供する仕組みの構築,そして企業が世界で活躍する日本人研究者にコンタクトし,Webや学会などを通じて円滑に交流できるシステムの構築を目指しています.

そして2013年12月,UJAは日本で最大の生命科学系学会である日本分子生物学会とタイアップし,留学を希望する人,あるいは留学を終えて帰国を希望する人への双方向の情報交換を促進するための「留学情報交換ブース」を設けます.さらに,海外日本人研究者を対象にした初の大規模アンケートを実施し,海外留学に関する生の声を集約します.これによって,海外研究留学で培ったノウハウやネットワークを再び日本に還元できるような継続的な頭脳循環のための仕組みを,文科省をはじめとした関係機関に対して具体的に提案していくことを目指しています.

■ おわりに ■

IT技術の普及は,知の爆発,そして人と人が世界中でつながるプラットフォームをもたらしました.一方,人と人との有機的なつながりは,これまで以上に重要になっています.世界各地で生まれ,受け継がれる日本人研究者コミュニティーの役割は,個々人の留学の成功,そして日本のサイエンスが世界で大きく展開するため,今後ますます重要になります.この流れは,3年,30年,300年,進むにつれて加速していくことでしょう.黒船来航により世界への扉が開けて約160年,日本人は世界へ勇敢に進出し,今日の国際社会における地位を築いてきました.しかしながら,世界各地のサイエンスコミュニティーを結ぶプラットフォーム,そしてその「知」を機能的なかたちで日本研究界に活かしていくシステムはいまだに存在しません.今こそ,我々和の国の民は全世界に散らばった点を結び,ひと続きの「輪」となるときではないでしょうか.全世界に張り巡らせた日本人の強固なネットワークで,日本人一人一人のキャリアを向上させながら,国際的なプレゼンスを強化することで,組織の発言権と影響力を獲得する.さらには,世界の研究におけるトレンド形成やルール作りにおいても主導権を発揮して,世界をリードしていく.そんな壮大な取り組みに賛同していただけるコミュニティー,個人,企業,団体,政府関係者,あらゆる立場の人のご参加,また新たなご提案をお待ちしています.