Two body problem (2BP) –同行する側の体験記 (医師から専業主婦、そして研究者へ)

執筆者
原田成美(東北大学病院 乳腺内分泌外科)
留学先
Department of Surgery and Cancer, Imperial College London (London, UK)

私は、現在大学病院に勤務する乳腺外科医です。2009年の9月から循環器内科医の夫の留学に伴い、英国に5年ほど滞在いたしました。帯同する側の留学記は多くありますが、同行する側の留学経験を記したものは少なく、少しでも皆様のお役に立てればと思い、英語力なし・基礎研究の経験なしの私のプロセスを紹介させていただきます。

1. 留学準備編 その1

・家族に切り出された側としてどう思ったか?
以前より夫は留学を希望していましたので、留学先や時期について時間をかけて検討した方ではないかと思います。それでも、葛藤はありました。研究での業績があり、臨床面でも専門医を取得し、かつ所属するラボもプロジェクトも決まっている夫に比べ、私には無い事ずくめでした。妊娠・出産で中断したキャリアは中途半端になってしまい、「私のキャリアパスはどうなるの?」という不安があったのは事実です。ただ、私自身もすっかり忘れかけてはいましたが留学の夢は持っておりましたので、主人の留学で何かきっかけをつかめたら、とプラスに考えることにしました。

・準備しておいたらよかったかも、と思った事は何か?
やはり、留学された方の多くが苦労をされている語学力です。英語論文を書いたことがある、国際学会で発表した事がある、程度の経験では歯が立ちません。留学が決まった時点で、もっと真剣に英語を勉強しておけば良かったと思います。特にイギリスでは、IELTSのスコア7をクリアしていれば、選択肢も広がりますので、漠然と英語を勉強するのではなく、何かの資格を目指すことをお勧めします。どの場面でもマストアイテムとなるPhDを取得しておいたことは、本当に良かったと思います。分野が違っていても資格として認識されているものですので、「ポスドク」としての待遇が受けられます。

2. 留学準備編 その2

・夫婦ともに研究者の場合、研究内容/ラボ環境を優先させるか、一緒に行ける都市を優先させるか?
都市を優先させました。前述のように、私は特定の留学先を検討していたわけではありませんので、「ワシントン」と「ロンドン」という選択肢があったなか、「ヨーロッパの方が楽しそう」という理由で、ロンドンに決定しました。こんなふざけた理由で?と皆様には理解が難しいところかもしれません。

・夫婦相互にどのように交渉・話し合いをしてきたか?
留学先での金銭面も含めた生活の事、子供たちの教育の事、についてはよく話し合っておりましたが、ほとんどが楽観的に考えていたと思います。情報を得ようにもなかなか入手する事ができず、かえって不安なく準備を進められたのかと思います。

・同じ留学先の都市の中でどのように研究室や職場を見つけるか?
ロンドンに決まってからは、私自身も所属医局の教授や他の留学経験をお持ちの先生に相談をいたしましたが、医師の研究留学と言えばアメリカという風潮の例に漏れず、ロンドンへのコネクションは皆無でした。「0からのスタート」を目の当たりにし、大学院に行って何か専門的な知識を身につける、もしくは基礎研究ができる機会と考え自分もチャレンジしてみよう、と考えるようになりました。しかし、インターネットを使って調べてみても、ハードルが高い事を思い知らされ、そうこうしているうちに渡英の日を迎えてしまいました。

3.家族の事

・家族が海外の転居先で現地になじむためには何が重要か?
渡英時は、子供たちの年齢も4歳、2歳とまだ就学前でしたので、環境に適応できるかの不安はありませんでした。それでも、息子は日系の幼稚園で1年を過ごしました。これは、語学が不安だった私が他のママさん達とコミュニケーションが取りやすい環境を望んだ事が大きかったように思います。

・チャイルドケア・教育にかかる費用・設備・環境、子供の心理面で起こった問題点。
子供たちは、それほど難なく新しい環境に慣れてくれましたので、心理面での心配はありませんでした。渡英前の多忙な生活に比べると、家族一緒に過ごす時間が長くなったことが大きく影響しているようでした。英国は学校へは養育者の送り迎え、子供の一人歩き禁止、お留守番も禁止、という国でしたので、とにかく子供達が守られていますし、必然的に一緒にいる時間が多くなる仕組みなのかもしれません。また、子供の行事に両親揃って参加するというのは当たり前で、むしろ行かない親が批判される、なんていうこともありました。

ただし、金銭面では本当に苦労しました。 英国はチャイルドマインダー(その方の自宅で子供を預かる)、ベビーシッター、ナニー、オーペア(住み込み)など、チャイルドケアのサービスは充実しておりますが、いずれも高額です。当然、それほど金銭面に余裕はありませんでしたので、初めは幼稚園・ナーサリーに預けるだけで(といっても、これだけで月に15万オーバーの出費になりました)、週3日のみ勤務、時短勤務などで乗り切りました。二人が同じ小学校に通うようになりようやくフルタイム勤務が可能になった時点では、留学期間は残すところ1年となってしまったことは、後述の最終的な留学期間の延長理由の一つです。小学校に入学してからも、学童などの放課後(学校はどの学年も15時で終了します)、長期休暇、ハーフターム(学期途中の1週間のお休み)など、チャイルドケアへの出費は続きました。

4.渡英後、そしていざ私も留学へ

・ポジションを探した時に苦労したこと、もし夫婦で同じ研究機関に赴任できた場合はそのノウハウなど。
渡英後の私のプロセスは以下の通りです。

(1)2009年9月〜 専業主婦

(2)2010年5月〜 Queen Mary University of Londonで基礎研究の基礎を学ぶ。
大学の同級生の縁でお世話になりましたが、基本テクニックを教わり、プロジェクトにも参加させていただきました。ここでの経験がなければ、基礎研究が嫌いになっていたかもしれません。

(3)2011年7月〜 Imperial College London-1 乳癌の研究が出来る場所へ移籍。
ほんの少し研究をかじると、やはり自分が専門としている乳癌の研究をしてみたいと思い、夫の勤めるImperial Collegeの日本人研究者の方のつてを頼り、受け入れの打診をしてみました。運良く、無給では有りますが、研究費はカバーしてくれるというラボで働く事が決まりました。サラリーなし・研究費持参というラボがほとんどでしたので、本当にラッキーだったと思います。そこでは、「内分泌耐性と転写因子」のプロジェクトを持たせてもらいましたが、いろいろと制限があり(ラボ同士の争いに巻き込まれてしまいました)、最終的には不完全燃焼となってしまいました。

(4)2013年5月〜 Imperial College London-2 ポスドクとして。
フルタイムで働く事が可能になった時には十分な研究時間が残されていなかった事と、もう少し研究してみたいという気持ちから、日本の所属先に大変なご迷惑をお掛けしましたが、正式なポスドクのポジションをとり、留学期間を延長する事としました。初めてのjob interviewを受け採用が決まった時には、感慨深く、大きな自信となりました。Oncologistのボスと共にプロジェクトを決め、自由に研究費を使わせていただき、自分が主導となって研究を進める事が出来ました。手探りの部分もありましたし、問題点に直面する事も多かったのですが、その頃には英語力も少しはまともになり、強力なコラボレーターの先生方にアドバイスをいただき、前に進む事ができました。ここでの経験があったからこそ、帰国後も研究を続けていきたいという意欲を持ち続けていられるのだと思います。

帰国後、わがままを言って留学期間を延長した事、臨床面でのキャリアアップが遅れてしまった事、お金を使い果たしてしまった事、再び夫が単身赴任になる、などなど次々と問題が降りかかってきましたが、半年で全ては(妥協も含め)落ち着きつつあります。日本での所属先の東北大学、英国でお世話になった方々に心より感謝を申し上げます。

皆様にご紹介できるような輝かしい留学記ではありませんが、自分自身、日本では経験できないような多くの新しい経験をさせていただき、大変満足しております。家族(カップル)での留学は楽しい思い出の共有はもちろん、(海外での生活だからこそ)同行する側の不安が大きく、帯同する側のサポートの負担が増すという苦しい思いを共有し乗り越える事で、より一層絆を深める良い機会になる事と思います。私と同じ立場で留学への同行を迷っている方がいましたら、ぜひポジティブなことと受けとめ、前に進んでいただくことを願います。

2015/09/17

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編集後記
原田成美さんには、留学に同行する家族の視点から準備段階と渡航後の生活についてご寄稿いただきました。渡航前に準備すべきこと、そして ご自身が Imperial College Londonでポスドクとして研究に従事された過程が丁寧に描かれています。
これからパートナー・家族とともに留学される方、特に研究者夫妻で留学を考えている方に是非とも読んでもらいたい内容になっています。
編集者
小藤香織
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