人と人との絆

執筆者
篠原 眞理
留学先
Duke University School of Medicine, Department of Immunology(アメリカ)

この度、UJAの「留学体験記」に寄稿させていただくことになりました篠原と申します。大学院からアメリカに来ました。最初はそれこそPhDなんてとんでもない、と思っていてマスターのコースに行こうと思っていました。しかし、大学時代の恩師が「どうせやるならPhDを取ってきなさい」とおっしゃったことから、PhDのコースに入ることにしました。まさか自分が博士になるなんてと思っていたところから始まり、目標の設定がいつも低めだったことが手伝い、(にもかかわらず、基礎研究という仕事が好きだったので)紆余曲折の末、現在、Duke University School of Medicine, Department of ImmunologyでPIをしております。私が院生としてアメリカに来た頃は90年代前半ですから、まだインターネットもなく、電話も日本へは1分200円か300円はかかったでしょうか。今考えるとゾッとしますね。そんなところから、どうにかこうにかやってきたことの一部を書いてみたいと思います。今自分がこうして好きな研究を続けていられるのは、まさに良い人との出会いがあったことが大きいと思います。 そのためタイトルは“人と人の絆”とさせていただきました。プロフェショナルとしての絆とプライベートにおける絆に分類して書いてみたいと思います。

1.プロフェッショナルとして

実は、私はこれでも引っ込み思案なところがあって、仕事上のネットワーク作りは得意ではなく、現在も格闘中です。ネットワークというと聞こえはいいですが、仕事のことで近づくというのはどうも下心ミエミエと思われたらどうしよう、などと自分で恥ずかしくなってしまうのです。(PIになってまでこういうことを言ってはいけないことは自覚済みで、あとは改善あるのみです。)ですので、他の研究者にどうアプローチするか、ということは他の指南書にお任せしたいと思います。ここは、すでに自分がチームや組織の一員となったときのことを書いてみます。
私が留学中に学んだことの1つは「徹底して仕事仲間をバックアップする」ということでした。意外、と言ってはアメリカ人に失礼かもしれませんが、彼らのプロとしての仲間意識と言うのはとても強いです。例えば、最初に目からうろこが落ちた一件は以下のものでした。私が院生の時、4人のアメリカ人ハウスメートと一軒家をシェアしていました。彼らは皆Law school studentsでした。ある日、私は彼らにMock Trialをするので陪審員として参加しないかと誘われました。弁護士の卵たち、ということで、模擬裁判で弁護士の役をする、と言うのです。シナリオは大体決まっていたようですが、どう弁護するかは彼(彼女)たちの腕次第。これも練習、だということです。さて、ハウスメートの1人、Mさんが弁護することになりました。頑張ってはいるのですが、素人の私から見ても、彼女の弁護はかなり弱く、どう贔屓目に見ても勝ち目がない。しかし、もう1人のハウスメートで私の横で陪審員の役をしていたPさんはMさんの弁護を全面的にバックアップする旨を熱く述べていました。これに私はびっくりしたのです。Pさんも弁護士の卵、私が見るよりもMさんの弁護に押しが足らないのは良くわかっていたと思います。ではなぜ、PさんはMさんをそこまで推したのか。それは、彼女が「仲間」だったからです。確かに、これは「えこひいき」などと片付けてしまうことも出来るかもしれません。しかし、私がそこに感じたものは、仲間は全力でバックアップすべきもの、という気持ちでした。その後、自分が仕事の上であらゆるレベルでの組織に入ることになりましたが、アメリカのプロフェッショナリズムにいつも強い印象を受けたことは、チームの一員として仲間を助け、守る、ということでした。この意識は日本の組織よりアメリカの組織の方が強いようにも感じます。
さて、研究の世界ではどうでしょう。あなたのラボの仲間があまり事情を知らないよそのラボの人に無理難題をふっかけられていたとします。自分には直接関係ないし、と知らんぷりしますか? そうではなく、ここは一肌脱いで一生懸命助けてあげてください。友達だから、というのはプライベートな理由で、それもまた良しですが、ここで強調したいのは、仕事の上での関係だけで個人的にはどうも、という人であっても、積極的に助けてあげることもまた同じ組織に属するものとして、またプロとして、やるべきことだと思います。残念ながら、人間は皆と「友達」になれるものではありません。しかし、「気が合うわけじゃないけど、仕事に関してはアイツは絶対信頼できる」と思ってもらえる関係を築くことができればそれはそれで素晴らしいのではないでしょうか。そのためには、相手が目上でも年下でも、チームを助ける機会があれば、是非そうしていただきたいと思います。高い所属意識をもって積極的にチームに貢献する。外国人である私たちだからこそ、必要なことと思います。

2.プライベートなレベルで
さて、留学に孤独はつきものです。私は独身の時に留学をしましたから、とてもよくわかります。そういう意味で、家族と一緒に留学する人は別の苦労もありますが、精神的には数倍は楽だと思います(家族円満だったら、の話ですが)。ですので、単身留学のほうが精神的に苦労することは必至です。しかし、単身で留学している人、がっかりしないでください。1人で留学しているほうが自由度が高い分、得られるものがずっと大きい可能性があります。しかし、単身にせよ、家族連れにせよ、慣れない土地での精神衛生には十分留意していただきたいと思います。確かに、朝から晩までラボにこもって実験をして業績を上げるのもあり、でしょう。しかし、人と人のつながりからしか分からないこともあります。日本人同士のつながりも作ると同時に、日本人以外の友達もぜひ作っていただきたいと思います。波長が合うなと感じる人がいれば、どの国から来た人であっても不思議に大丈夫なのです。文化習慣の違いはあっても、もっと人間の本能的なものが大事なのかもしれません。
自分の国を離れた生活での心労は実は相当なものです。研究、実験、などという以前に心労で参ってしまう留学生は珍しくありません。まず、心の健康を大切に。人間には他の誰かが必要です。自分の場合、日本人以外ではラボの中の友達、同業者、また、全く異業種の友達が幸い出来ました。異業種の友人は移民としてアメリカに来て苦労している方が多かったかもしれません。おそらく、新しい土地で何とか頑張っていこうという気持ちを重ね合わせることが出来たのでしょう。職業や人種に全く共通項がないので、そのままの人間として向き合うことが出来ました。機会があれば、ラボからたまには出てみて、全く違った人との出会いを期待してみるのも良いのではないでしょうか。じゃあ、どうやって?と思うかもしれません。私の場合はボランティアやちょっとした集まり、またそれこそ、実験動物舎で働いていた人と家族ぐるみでおつきあいいただいたこともありました。最近はMeetupなどといったウェブ上のツールであらゆるコミュニティーを探すことも出来ます。確かに、勇気は要りますが、同じような勇気は学会で人に話しかけるにも必要。ちょっと頑張ってやってみるのも良いかもしれません。
言葉も習慣も違う国で仕事をするのは大変なことです。だからこそ、孤立無援になってしまうのはあらゆる意味で危険なことです。また、留学によって、より幅広く人々と知り合うことも可能です。せっかく日本の外に出るのですから、この際、少し自分の背中を押してやってはいかがでしょうか。

2015/10/19

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編集後記
プロ意識をもって、ラボや研究所のメンバーと繋がり助け合うことの大切さが深く伝わって参りました。こうしたコミュニティー意識は、私は日本にいた時は、正直持ち合わせていませんでした(むしろ逆だったかも)。アメリカに来て、異文化の中で生活するなかで、その大切さに少しずつ気づくことができました。ラボ・研究所、そして同じ場所で生活するだけでも仲間意識が芽生えます。勇気をもって、積極的にコミュニティーに貢献していきたいと思います。ご寄稿有り難うございます。
編集者
Atsuo Sasaki
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