留学って、おもしろそうじゃありません?

執筆者
四本 裕子(東京大学大学院総合文化研究科准教授)
留学先
ブランダイス大学、ボストン大学・マサチューセッツジェネラルホスピタル・ハーバードメディカルスクール(アメリカ)

私は、東京大学で学士と修士号を取得後、米国マサチューセッツ州のブランダイス大学に4年在学してph.D.(psychology)を取得、その後、ボストン大学・マサチューセッツジェネラルホスピタル・ハーバードメディカルスクールでポスドク研究員として5年程働きました。その後、慶應義塾大学の特任准教授を2年間務め、3年前より東京大学大学院総合文化研究科の准教授として研究・教育活動をおこなっています。

今から15年ほど前、私が大学院博士課程で留学したのは「なんとなく、そっちのほうがおもしろそうだから」という理由からでした。幸運にも、留学先で素晴らしい指導者に出会うことができ、その時代の業績が今の職に繋がったわけです。留学時代、特に博士課程在学中は、「留学している自分」というものに気負いがあったような気がします。留学先で母国語ではない言語で学位を取ろうとしている自分の状態が、特別なものであるような気がしていたのです。その後のポスドク時代は、科学の最先端をゆく組織の中で、母国語がどうというレベルを超越した厳しい競争を目の当たりにしました。その時期になると、もう自分がどこに住んでどの言語を使っているかなんて、関係ないのだと思うようになりました。

「おもしろそうだから」で留学を開始した私ですが、日本への帰国を決める際には、いろいろと悩みました。とりあえず内定をいただいた日本の特任准教授職は任期付きで、その後の保証は何もない。日本でテニュアが取れるだろうか。在米のままテニュアトラックのアシスタントプロフェッサーにアプライして、その後、グラントを取り続けてテニュアを勝ち取る気力と体力が自分にあるだろうか。研究する環境として、日米のどちらがいいのだろうか。米国の友人達と離れて、日本でソーシャルサークルを再構築できるのか。などなど、考えれば考えるほど、わからなくなりました。思い悩む中で、帰国の結論を出した理由の一つは、「このまま永住するよりも、一時的であっても日本に戻って日本の研究環境で働くとうい経験を持つほうが、おもしろいような気がする。」という思いでした。私の場合は運良く日本でテニュア職に就くことができましたが、そうでなかったら、またアメリカでアシスタントプロフェッサーのポジションを目指していたかもしれません。そして、帰国から5年経った今では、「おもしろそうだから」で動ける機会はすっかり減ってしまっています。

東京大学で学部生・大学院生を指導するようになってからは、彼ら彼女らのキャリアについて考えることも多くなりました。留学に興味を持つ学生には、積極的に留学を進めています。一方で、留学したからといって、必ずしもキャリアのプラスになるとは限らない。と思わされる事例も見てきましたので、留学=プラス、国内=マイナスという考えはまったく持っていません。経験の浅い私のような教員の元で、素晴らしい才能をもった学生達が成長し業績につなげてくれているのを見るのは、本当に嬉しく幸せです。

「若者よ、人生は一度だ。世界で活躍しよう!」というタイトルでの原稿依頼をお引き受けしましたが、「世界で活躍しよう!」については、必ずしも皆が共有する必要はない目標だと思います。一方で、前半の「若者よ、人生は一度だ。」については、心からそう思えます。研究する場所が日本でも海外でも、成功する人はするし、しない人はしないのだと思います。ただ、一度きりの人生で、しかもキャリアの前半で留学できるのは、多くの人にとって「おもしろい」。留学や帰国の動機なんて、そんなものでいいのではないでしょうか。

2015/04/19

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帰国編
留学のすゝめ!
編集者
黒田垂歩
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