案ずるより産むが易し 〜“その一歩”であなたは変わる〜 

執筆者
勝本 恵一
留学先
The Danish Stem Cell Center(Danstem), University of Copenhagen(デンマーク)

私は、2010年6月より海外留学を開始しました。今年でちょうど、海外留学生活5年目を過ぎたところです。私の専門分野は、発生生物学になります。日本では、鹿児島大学大学院理工学研究科で坂井雅夫教授の指導を受け、ツメガエル シュペーマンオーガナイザー形成機構の解析を行い、学位を取得しました。その後、熊本大学発生医学研究所 粂昭苑教授の研究室(現在 東京工業大学生命理工学部)でポスドクとして勤務し、ニワトリ胚を用いて、膵臓発生メカニズムの解析を行いました。留学先は、膵臓発生生物学分野で著名であるAnne Grapin-Botton博士(当時 スイス連邦工科大学スイス実験ガン研究所)の研究室を選びました。

熊本大学所属時に、発生医学研究所が主催したmeetingで、Anne Grapin-Botton博士が発生医学研究所に来られ、ポスター発表で、自分の研究をアピールしたのがきっかけでした。また、ヨーロッパでの国際会議に出席した際に、スイス実験ガン研究所の研究室を訪問させていただき、プレゼンを行い、自分の研究を研究室のみなさんに紹介しました。その後、研究室のみなさん一人一人から研究プロジェクトについて、紹介を受けました。日本に帰国後、ポジションが空いていないか尋ねたところ、研究プランについて、私の研究室で将来何をしたいのか、具体的に電話で話して欲しい、と提案され、国際電話にて討論しました。国際電話で話したい、議論したい、とe-mailを受け取った時には、かなり胃が痛くなったことを今でも鮮明に覚えています。1週間後にアポイントメントをとったので、何を話すか、念入りに準備し、何回も何回も練習したことを覚えています。

国際電話で話すこと(skypeではありませんでした)とポスター発表で話すこと、プレゼンテーションを行うこととは、本当に全く異なり、非常によい経験をしたと思います。辛かった点は、相手の表情を見て話すことができないので、全てが音声のみのコミュニケーションになることです。私のペースに持ち込むために、とにかく、しゃべりまくったことを覚えています。もちろん、綺麗な英語を話していなかったことと思います。しかし、海外留学を経験したことがない人にとっては、条件は同じではないでしょうか? 黙り込んでしまうことが、一番危険に思います。自分は、うまく話せないと思い、英語を話さなかったら、いつまでたっても本当に話せないと思います。

留学先を見つけるのに、自分の強い興味がある分野の研究室を選ぶことはもちろんですが、ボスの人柄もかなり重要に思います。できることならば、複数回、直接話してみてしっかり考えるべきです。幸いなことに、Anneは人柄もよく、非常に感謝しています。海外留学をはじめるにあたり、本当にいろいろな心配事があるかと思います。研究についてはもちろんの事、文化の違い、食事、治安、生活費、語学(英会話)など挙げていったら、きりがないかもしれません。特に語学(英会話)に関しては、大きな不安があるかと思います。しかし、過剰な心配ばかりしていては、いつまでたっても最初の一歩を踏み出せないと思います。もしも、あなたが全てにおいて完璧で、語学(英会話)についても全く問題がなければ、逆に留学する必要は全くないと思います。“まだまだ未熟だから、多くのことを学びたいから”留学をするのではないですか? “出来ないから”留学するんじゃないですか?

私も留学生活が、5年を過ぎました。本当にあっという間でした。本当にたくさん苦労しました。本当にたくさん失敗しました。留学当初は、良い論文をまとめることばかり考えてしまい、朝から夜遅くまで研究室に滞在し、夢中で頑張りました。黙々と実験しました。本当に必死でした。パーティーの誘いも断って、研究室にこもってしまいました。今では、本当に後悔しています。意外に感じるかもしれませんが、パーティーには、よほどの理由がない限り、絶対に参加してみんなと交流を深めるべきです。パーティーは、必ず、大いに楽しむべきです。多くのかけがえのない親友ができるし、なんといっても、英会話の勉強になります。多くの親友を得ること、人脈ができることは、研究に限らず、人生において、本当に大切なかけがえのない財産になります。研究で行き詰まり困っていたら、声をかけてくれるようになるし、多くの有益なアドバイスをくれます。

また、多くの同僚が、バカンスを思いっきり楽しんでいます。本当にメリハリの効いた研究スタイルです。研究をやるときは、しっかりやる! バカンスを楽しむ時には、思いっきり楽しむ!  この点も、留学当初に失敗した点ですが、皆がバカンスを楽しんでいる時に、実験を入れてしまいました。なかなか研究が進まないので、焦っていたのですが、うまくいかない時には、何をやってもうまくいかないものです。バカンスは、気分転換、何か新しいアイデア、ブレイクスルーを生む上でも、本当に重要に感じました。旅行は、留学生活をうまく運ぶための、ちょっとしたスパイス(隠し味)です。

それと、研究生活の上で重要に感じたことは、meetingの時には、積極的に質問をすることです。英語ができなければ、できないほど、積極的に質問するべきです。質問するには、発表を理解する必要があるので、一生懸命に聴き入ります。え?なんでそんな結論になるの? こんなアイデアはないの? など、必ず疑問が生じるはずです。ポイントのずれた質問をすると、同僚たちが指摘してくれるし、自分のアイデアの修正につながります。もしも、変なことを質問してしまったら……と恥ずかしいかもしれません。しかし、私は基本的に、質問に“変な質問”というのはないと思います。必ず、何かしらの新しいアイデアが浮かんでくるものと思います。

留学先は、スイス連邦工科大学スイス実験ガン研究所(ローザンヌ)だったのですが、留学から1年半ほど経過したところで、ボスがコペンハーゲン大学デンマーク幹細胞センターに移動したことから、私も移動しました。スイスからデンマークに研究室が引越しするという、貴重な体験が出来ました。国が変わると、当然、文化、生活スタイル、ルールなどが、ガラリと変わります。適応するのに、本当に苦労しました。うまく乗り越えていく、1つの秘訣は、もしも“変な”プライドを持っていたら、良い意味で捨てることです。これは、研究生活にも言えることと思います。ローザンヌは、レマン湖に面した美しい小さな町で、フランス語圏です。フランス語は全く話せなかったのですが、なんとか片言、単語を言うだけでも、役所、スーパーでのコミュニケーションは、格段に違うように感じました。デンマークは、デンマーク語です。多くのデンマーク人は、英語を流暢に話すので困りませんが、やはり片言でも(例えば、挨拶だけでも)デンマーク語を話すと、コミュニケーションが非常に取りやすいように感じます。

研究留学の目的は、多くのテクニックを身につけて、良い論文を書き上げ、次のポジションにつなげることでしょう。当然のことと思います。良い仕事ができたら、本当に素晴らしいことです。しかし、あえて言わせていただくと、留学の醍醐味は、人間の幅が広くなること、人間として成長できること、これに尽きると思います。いろいろな苦労をすればするほど、他人に対して優しくなれます。親切になれます。それは、その人の苦労が、わかるようになるからです。

“……おまえたちの前途が、どうぞ、多難でありますように……。多難であればあるほど、実りは大きい。” 小説家 檀一雄氏の、娘たちへの手紙の一節です。もしも、研究留学に興味があるけれども、今一歩踏み出せない人がいたら、ぜひ、一歩踏み出して、羽ばたいてみてください。きっと世界観が大きくかわり、研究のみならず、人間としてかけがえのないものを得ることでしょう。皆様の飛躍を、心から祈念いたしております。

2015/10/19

関連タグ
留学前ドキドキ編, ,
留学中編
人と人との絆
留学のすゝめ!
編集者
黒田垂歩
UJAでは留学体験記を執筆して下さる方を随時募集しております。ご興味のある方は、UJA留学体験記編集部までお気軽にご連絡下さい。留学体験記 編集部: findingourway@uja-info.org