留学によって得られる“友”という宝物

執筆者
大須賀 覚
留学先
エモリー大学ウィンシップ癌研究所(アメリカ)

「留学で一番大事なことは何ですか?」。留学に行く直前に私はこの問いを、長年お世話になった恩師である佐谷秀行教授(慶應義塾大学遺伝子制御研究部門)に伺ってみました。佐谷先生はかつてアメリカでも大活躍されておられたので、その成功の秘訣を私は聞きだしたいと思ったのです。佐谷先生は、何の躊躇もなく、すぐに1つの答えをくれました。「友を作ることだよ」。多くの親友を作り、自分の世界を広げ、研究面でもネットワークを作り、将来に活かすことが、留学で一番重要なことだと教えてくれました。

私はアメリカ南部のアトランタにありますエモリー大学で、脳腫瘍の研究に従事しています。今回、海外での研究留学を考えている人のために、何かアドバイスになればと思い、私が留学から現在進行形で学んでいることを少し紹介させてもらおうと思います。特に、留学によって得られる“友”について、ご紹介させてもらいます。

海外で得られる友にはどんな人たちがいるでしょうか? 留学する前には同じ研究室の人ぐらいしか思い浮かびませんでしたが、実際には本当に様々な人に出会うことができます。出会いは日本で研究していた時よりも広く深いと思います。さらに、海外留学では意外にもたくさんの大事な日本人の友もできます。このあたりについても紹介させてもらいます。あと、英語との関係について、どうすれば友を多く作れるのかなどにも触れたいと思います。

1.外国人の友について

留学で出会う外国人の友には様々な人たちがいます。仕事関連では、研究室の仲間、共同研究者、同じフロアーで出会う研究者、事務の職員などがあります。プライベートでも多くの人に出会い、友となります。近所に住む人、通勤バスで毎日出会う人、子供の同級生の親、友人のパーティーで出会う人など、本当にたくさんの人たちと出会い、友となります。私のいるアメリカはまさに人種のるつぼで、これらの人たちの出身国は多岐に渡ります。まさに世界のほとんどの国の人と知り合います。また、違う宗教の人とも出会います。これらの友との出会いは、その国の文化や考え方、宗教による生活習慣の違いを、ダイレクトに感じる貴重な機会になります。お互いの国の食事を紹介しあったりするだけでも、自分の感性や考え方が広がるように思います。

最も重要な友は同じ研究室の同僚だと思います。私の研究室は多国籍で、同僚の出身国は、アメリカ・中国・韓国・インド・スロバキア・トルコと広範です。私は留学してすぐにとなりのデスクの中国人と仲良くなりました。まだ私が何もわからない時に、彼は親身になって助けてくれました。彼は本当に親切に、物品の場所から、ラボのルール、ボスとの関係の作り方など、いろいろことを丁寧に教えてくれました。海外では、言葉の壁があるために、どうしても様々なルールなどで戸惑うことがあります。そんな時に、本当に助けになるのはラボの友だと思います。彼の助けのおかげで私はスムーズにスタートを切れました。ラボで友をたくさん作ることは、仕事を成功させる上での鍵だと思います。

ラボの仲間たちは私の研究を応援してくれますし、家族のことや子供のことなども気にかけてくれます。海外での交流の仕方は基本的に家族ぐるみです。もちろん、日本国内でも家族ぐるみの付き合いはありますが、そんなに積極的なものではない気がします。お互いの家族で一緒にいろいろなイベントに参加したり、子供の成長を一緒に見守っていると、日本ではない密接な関係が築けると思います。

私はこちらに来てから妻が妊娠し、出産しました。慣れない異国の地での出産にも、みんなはいろいろな助けをしてくれ、そして一緒に喜んでくれました(写真1)。異国での妊娠・出産は日本とは違うことがたくさんあり、友の助言などがなかったら、スムーズにはいかなかったと思います。みんなに大変に感謝しています。

自分の研究分野における優秀な研究者に多数会えることも、留学の重要な要素です。エモリー大学には脳腫瘍を研究している研究者が多く、この分野の一流研究者に出会えますし、これから活躍していく若手研究者とも友となれます。このことは、今後の仕事のためのネットワーク作りとしても重要だと思っています。やはり、顔を知っているかどうかというのは何の面においても重要です。

2.日本人の友について

日本人の友についても紹介しておきます。実は、海外留学こそ日本人の大切な友がたくさんできる好機だと思います。日本を離れて、慣れない異国の地で、コミュニケーションが不自由な環境で過ごすのですから、他の日本人の助けは貴重です。私自身はスタートアップする際には多くの日本人に助けてもらいました。そのおかげでスムーズなセットアップができました。本当にありがたかったです。そのありがたさが分かるので、その後は新たに来る研究者を積極的にお助けしています。このような機会を通して、日本人研究者同士で大変に深い絆ができます。彼らとは一緒に遊び、困っていることを相談しあい、お互いの子供たちの成長を見て感動することができます。

アトランタにはたくさんの日本人がいますが、そうと言っても、やはり同じ町や大学のコミュニティーは明らかに狭いので、日本人同士で集まることなどは比較的簡単です。交流も活発に行われています。エモリー大学内にも日本人の研究者コミュニティーがありますし、大学内に併設するCDC(公衆衛生に関するアメリカの政府機関)の日本人職員とのコミュニティーもあります。また、エモリー大学のビジネススクール(MBA)に通う、日本人の一流ビジネスマンや、省庁から出向している官僚の方と知り合う機会もあります。普段は触れることのできない見聞を深めることもできます。異分野の人たちと知り合える機会は留学ならではと思います。
遊びもみんなと一緒に楽しみます。紹介する写真は日本人研究者の仲間で、Color Runというマラソンイベントに参加した時の写真です(写真2)。いろいろな色のカラーパウダーをかけられながらマラソンするという、アメリカらしい陽気なイベントです。このようにアメリカを楽しめるのは、良い仲間がいるからです。

研究面でも日本人研究者の存在は重要です。特に、エモリー大学で研究されている日本人研究者にはいつもいろいろなヒントをもらっています。日本にいる際には、なかなか癌分野以外の研究者に出会う機会は多くなかったですが、こちらでは異分野の日本研究者と知り合う機会が多く、研究の話から新たなアイデアをもらったりしています。私は定期的にエモリー大学内の日本人研究者と、ランチディスカッションをしており、そこから新たなアイデアやモチベーションをもらっています。

3.友を作ることと英語の関係

友を作ることと、英語の能力を上げることとは密接に関わりがあると、私は思っています。海外留学した研究者で英語の面で難しいことは、英語を話す機会が決して多くはないことだと思います。授業があるわけではないですし、黙々と1人で研究していれば、話す機会はあまり多くはありません。そのため、友と一緒にランチを食べたり、雑談したりすることが、英語を話す機会をもつ上で、とても大事です。英語を話し、聞き、洗練させていく、多くの機会を得られるかは友の存在を抜きにしては語れません。英語が話せないから友ができないと嘆く人もいますが、そうではなくて、友を作らないから英語が上達しないのではとも思います。

言葉の壁はもちろんあります。私も英語が得意な方ではないので、常に苦労し続けています。聞き取れない、伝えられない、というもどかしさと常に戦っています。親友が落ち込んでいる時に、言葉をかけてあげたいのに、適切な言葉が分からないなど、もどかしさだらけです。ただ、このような気持ちが英語の勉強のモチベーションになっています。

4.留学先で多くの友を作るコツは何か?

どうしたら多くの友を作れるのでしょうか? これは、私にも正確な答えはないです。本当に交友関係の広い研究者を観察して、何が違うのかなと考えたこともあります。私なりに、今持っている答えのうちの2つをここでは紹介したいと思います。

1つは、「積極性」だと思います。話しかけないと始まりません。英語が達者でない日本人にとって、話しかけるということ自体が大きな壁があります。ただ、何事も話しかけないと始まりません。うまく伝わらなくてもいいから、とにかく話しかけると道が開けていきます。あとは、新たなコミュニティーを開拓していくと広がるのではと思います。ただ、研究が忙しくて、これに関してはそれほどできていません。余裕ができたらチャレンジしたいなと思っています。

2つ目は、「相手に興味を持つこと」だと思います。この人はどんな人なのか、どこの国出身で、どんな背景があってここにいるのか、家族はいるのか、子供はいくつなのか、将来の夢は何なのか、どんどんと興味をもって聞いていれば、お互いがわかり、そして自然と関係は深まっていくと思います。

5.最後に

友は留学によって得られる宝だと思います。留学を考えている方は、ぜひ留学先で多くの友に会い、喜びや苦労を共にしてもらえればと思います。もちろん、交友関係の作り方は個人差があると思います。その人なりのペースで良いのではと思います。友を必死になって作る必要はないです。自然体で構えて、出会った人に常に興味をもって、丁寧に接していれば、きっとたくさんの友ができるのではと思います。これらの出会いが将来どのように役立つのかはわかりませんし、そんなのを計算してもしょうがないと思っています。ただ、慣れない海外生活をともに助け合って過ごした仲間の結束は強いです。これは、きっと将来にも渡って続くに違いないと思います。

さらに多くの仲間がアトランタに来て欲しいので、最後に宣伝をしておきます。アトランタは温暖で過ごしやすく、緑も多い綺麗な街です。アメリカの大都市のなかでは珍しく家賃などの物価も安いです。アジア人の移民が多い都市のため、日本の食材もほとんどが現地で手にはいります(少し高いですが)。大変に住みやすいです。エモリー大学、ジョージア工科大学をはじめとしたたくさんの大学があり、様々な日本人研究者もいます。海外留学生活をエンジョイし、新たな友を作り、世界を広げるには最高ではないかと思います。ぜひ、機会があれば留学先として検討してください。

最後になりましたが、私の経験を紹介させてもらう貴重な機会をくださった実験医学・UJAの関係者の皆様に心より感謝を申し上げたいと思います。ありがとうございました。

ラボの仲間

【写真1】ラボの仲間が私の新しい子供の出産祝いをしてくれた時の写真。左から5番目が著者、その右となりがボスのErwin Van Meir教授。

マラソン大会

【写真2】日本人研究者の仲間でColor runというマラソン大会に参加した時の写真。

2015/10/19

関連タグ
留学前ドキドキ編
留学中編,
人と人との絆, ,
留学のすゝめ!
執筆者紹介
大須賀覚
所属 Van Meir Lab, Department of Neurosurgery, Winship Cancer Institute, Emory University
編集後記
大須賀さんは、同じく第8回にご寄稿いただいた中山義敬さんからご紹介頂きました。冒頭の佐谷先生のお言葉を、留学へ見事に活かされている大須賀先生のご体験談とアドバイス、非常に伝わって参ります。積極性と相手への関心。一流の研究者の方にみられる共通の要素に思いました。大須賀さん、ご寄稿頂き有り難うございます(佐々木敦朗)。
編集者
Atsuo Sasaki
UJAでは留学体験記を執筆して下さる方を随時募集しております。ご興味のある方は、UJA留学体験記編集部までお気軽にご連絡下さい。留学体験記 編集部: findingourway@uja-info.org