競争(compete)ではなく協調(cooperate)を!

執筆者
村川 泰裕(理化学研究所 予防医療・診断技術開発プログラム)
留学先
Max-Delbrueck-Center for Molecular Medicine (Berlin Institute for Medical Systems Biology)(ドイツ)

私は、ドイツのベルリンにあるMax-Delbrueck-Centerに留学しました。留学先としてベルリンは稀だと思います。子供の頃に「舞姫」の映画を見たことはありましたが、まさか自分もベルリンに留学することにもなるとは思いませんでした。「舞姫」では、「たちまちこのヨオロツパの新大都の中央に立てり。何らの光彩ぞ、我が目を射むとするは。何らの色沢ぞ、我が心を迷はさむとするは。」と黄金期の輝かしいベルリンの描写が始まります。しかし、現在のベルリンは、第二次世界大戦と約40年におよぶ冷戦・東西分断の後の混沌から立ち上がりつつあります。研究所は旧東ベルリンの北部にあり、初めて訪れたときは周辺の殺風景に驚愕しました。しかし、べルリン前市長のKlaus Wowereit氏が“Berlin ist arm, aber sexy(ベルリンは貧しいがセクシーである)”と述べたように、今のベルリンは、刻々と変化し躍動感があり、自由でまた多様性に富む学術・芸術の都だと思います。Computational BiologyやExperimental Biologyなどの異分野融合を掲げ2008年にMax-Delbrueck-Centerにシステム生物学部門が設立されました。私はその中のラボで遺伝子の発現を調節する仕組みの1つである転写後調節(RNAから蛋白質への調節)のゲノムワイド解析を行いました。海外はゆったりとしていますが、緑に囲まれた静かな環境でサイエンスができることは、将来の自分の方向性を模索する上で大変恵まれたことだったと思います。

前置きが長くなってしまいましたが、海外に留学すると、今まで育ってきた身の周りに普通に存在したものが制限され、全く異なる文化や価値観そして景観が周囲を埋め尽くします。特にベルリンは制限された環境だったのではと思います。このような状況において最も大切なのはcooperate(協調)であり、してはいけないことはcompete(競争)だと思います。海外に留学するわけですので、現地の外国人に溶け込み異文化で研究や生活することが大切なのは言うまでもありません。留学先は、ラボ間の垣根が低く、共同研究が多く、様々なラボのcolleaguesと飲みに行ける機会が多く、とても協調的でした。また、ヨーロッパ他国・アメリカの研究者とセミナーやワークショップで接する機会が多く、国際的なネットワークの中にいると感じました。また、もちろん日本人の存在もとても大きいです。しかし、ボストンなどと異なり、旧東ベルリンの郊外にある研究所には数人の日本人研究者しかいませんでした。そのうちの1人の保田朋波流さんは、ベルリン・ポツダム地区の日本人研究者の会(青熊会;後にUJAにも参加)を立ち上げられ、お蔭様で交友関係も大幅に広まりました。限られた環境でも最善を尽くし積極的に可能性を模索することが重要だと思いました。ベルリン留学中に研究者に限らず音楽家など様々なバックグランドの人たちに出会い語り合えたことは大変幸いでした。

私にとって研究の醍醐味は、いろんな人と触れあいアイディアを交わし合い、あんなことこんなことを言いながら可能性を模索(妄想?)することや、新しいことを知りそれまでの見方が変わる瞬間に巡り合うことです。その上で最も大切なのは、国内外の様々なバックグラウンドの人達との絆であり信頼でありcooperateだと思っています。また、研究が思うように進まないときも応援してくれる多くの方の存在はとても大きな支えです。私にとって海外留学は、1人で研究しているわけではないということを実感させてくれ、新しい価値観や考え方を多方面に養ってくれた無二の機会だったと思います。

ちなみに、留学される方にお勧めする「やるべきこと」は、「日本食店があれば必ず早い段階で通う」でしょうか。「やってしまったこと」は「ワイン・ドイツビール・高脂肪食を摂取して太ったことです。やっぱり健康な身体は資本です。

2015/10/19

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編集者
黒田垂歩
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