留学で“人とのつながり”の価値を再確認する

執筆者
千葉 拓人(ヴァンダービルト大学大学院)
留学先
メリーランド大学カレッジパーク校、ヴァンダービルト大学

私は日本で学士と修士号を取得後、米国での博士号取得を目指して海を渡りました。最初にメリーランド大学カレッジパーク校で技官として働きながら進学準備を進め、そののち進学したヴァンダービルト大学にて2015年の5月に細胞生物学分野の博士号を取得しました。

これまでの日米での研究経験からたくさんのかけがえのない人脈を得られてきました。この留学体験記企画で西田敬二先生(http://uja-info.org/findingourway/post/1096/)も述べられていますが、実力本位の研究の世界ではややもすると否定的に語られがちな“コネ”という要素、しかし国際的に活躍する研究者となるには人的ネットワークの蓄積は実力の一部となってきます。私にとって米国での留学経験はその価値そのものを気づかせてくれるものでした。以下3つのポイントについて書いてみたいと思います。

1.米国の大学は各大学の得意分野の拡充を常に模索している

米国の大学間では研究室の移動がとても頻繁に起こります。大学と研究室を主宰するPI双方にとっての、より良いマッチングを求めて引き抜きなどの交渉が日常的になされているからです。その1つの目的として、各大学における得意分野を積極的に拡充すること、があります。ヴァンダービルト大学でいえば発生生物学、(細胞外)マトリックス生物学、構造生物学などの分野が挙げられます。これらの分野における研究室の数を増やしたり、共通して使う実験設備を共同で購入・管理したり、またこれらの結果として学内コラボレーションを活発化させたりして大学としての研究競争力を高めています。とりわけヴァンダービルト大学の構造生物学研究グループはNMRやクライオ電子顕微鏡など高価な機器を共有できる環境づくりに砕心しており、学内コラボレーションを次々に打ち出すなど目立ったグループとなっています。
個人的に大きく関わりのあった一例として、ヴァンダービルト大学Program in Developmental Biolgyという広く幹細胞生物学分野の研究者が集まるプログラムがあります。それぞれのPIが正所属する学科間の垣根を越えたプログラムで、週に一度のジャーナル・クラブや年に一度のリトリート(泊りがけの研究発表会)を通して交流を深めます。腎臓の再生を博士研究のテーマとしていた私にとってはこれがとても有益なプログラムでした。研究上の様々なヒントを得ることが多く、そして多くの友人を作ることができました。留学先を決める際には一にも二にも受け入れ先のPIが重要ですが、その分野の学内コミュニティの活発度も少し調べてみるといいかもしれません。

2.地域内での交流

ヴァンダービルト大のあるテネシー州ナッシュビル市内にはメハリ医科大学、フィスク大学などがありコラボレーションや研究リソースの共有など活発な交流があります。また近郊のセント・ジュード病院やアラバマ大学バーミンガム校などとは共同の研究発表会などもよく開かれています。私の所属する研究室は南部の大規模研究拠点であるリサーチ・トライアングル内の一企業と共同で腎臓病治療薬の研究を進めています。このように私の目には産学における活発な交流があると映るのですが、ナッシュビルは研究交流という点ではまだまだ立ち遅れているとされている地域なので、同じ米国内でもボストンやサンフランシスコ・ベイエリアにおける活発さは推して知るべきところです。

3.日本人コミュニティ

ナッシュビル市内には合わせて20〜30人の日本人が常に留学しています。この少なすぎず多すぎずの平均人数がちょうどいいようで活発な交流があります。ほぼ2か月に一度の研究交流会やメーリングリストを軸として、研究者同士やその家族ぐるみで公私ともに助け合ういい雰囲気があります。当然それぞれの研究分野は多岐に渡るのですが、逆にそれがお互いの見識を深めたり、ボス同士を紹介して正式な学内コラボレーションに発展することなどもあります。留学後、多くの方々は日本に、それも全国様々な地域に帰任されるので、米国留学を期に日本全国に人脈を広げる良い機会になっていることが興味深いところです。

最後に、最近になって人的ネットワークを積むことの重要性をあらためて考えさせられたこんな経験をしました。私にとって米国での最初の着任先であるメリーランド大学ではメキシコに生息する眼の無い洞窟魚という材料を用いた進化発生生物学の研究に関わっていました。紆余曲折を経て現在の私は腎臓の再生の研究をしており、その流れで現在は民間での研究に強い興味を抱いています。そうしたところ、メリーランド大学時代の同僚のアメリカ人の1人が現在はNovartis社のボストンの研究所にて緑内障の研究に関わりはじめたという近況報告をしてくれました。さっそく私が民間での研究に興味をもっていることを伝えると、その元同僚は多くのアドバイスとともにたくさんの新たな人たちを紹介してくれました。連絡を取り続けていて本当に良かったと思いました。とても基礎的な生物学分野で初期キャリアを積んだ2人がこのように後の人生で別なフィールドにおいて交錯することになりました。どのような人がその後どのように自分を助けてくれるのか分かりません(そしてその逆も!)。重要なことは今まさに自分が関わる研究において出会うことなった人たちと活発に交流し、さらにはそれを少しずつ広げる努力をすることではないかと思います。

2015/10/19

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編集後記
日本人(特に研究者)は何事も全て自分でやろうとする人が多いのではないでしょうか。私も以前はそうでした(今もその傾向があるかもしれません)。1人でコツコツ努力することは大事ですが、人生には限りがあります。人と人との“良い”関係を築くことで、一生の内に1つでも多くの自分の夢を 達成することが出来たり、自分1人では思いも寄らないことを体験したりすることが出来るのではないでしょうか。
編集者
川上 聡経
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