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UJA法律相談所 —第1回—

更新日:2023年6月20日

Augen Law Offices P.C.

古川 裕実

Seattle:Kerry Parkからシアトルのダウンタウンを一望。手前に見えるSpace Needleは、シアトルの象徴的建物です。

はじめまして、弁護士の古川裕実と申します。ボストン近郊のブルックラインで、ニューヨーク州弁護士・日本の法曹有資格者として勤務しています。専門は日米知的財産権法、日米契約法、米国移民法で、個人・企業を問わず、幅広く助言させていただいています。米国UJA法人の設立のお手伝いもさせていただきました。この度、UJA Gazetteの貴重な紙面を頂きましたので、研究者の皆様に役立つ法律情報を継続的に提供できればと考えております。初回は、自己紹介を兼ねて私が米国で働くに至った経緯と、COVID-19の混乱の中で出された、移民・ビザに関係する大統領布告(Presidential Proclamation)についてお届けします。



米国で働くに至るまで

UW Law School: UW Law Schoolの建物はWilliam H. Gates Hall といい、かの有名なビル・ゲイツのお父さん(William H. Gates Sr.)にちなんで名付けられました。ガラス張りで開放感があり、雨ばかりで鬱々とするシアトルの冬もなんとか乗り切れました。

私は、2004年に早稲田大学法学部を卒業し、1年半の司法修習(59期)を経て、2006年から長島・大野・常松法律事務所で弁護士として勤務し、知的財産権・契約法・訴訟を主な専門分野としていました。勤務5年目に留学の機会を得たので、2011年から2012年にかけて、ワシントン州シアトル市にあるUniversity of Washington School of LawのLLM in Intellectual Law & Policyプログラムで米国法を学び、比較知的財産権法を研究対象としました。卒業後はDavis Wright Tremaine LLPのシアトルオフィスで1年間勤務する機会を得て、知的財産権法、移民法、契約法に関する案件のほか、現地の離婚事件や相続事件などにも関与しました。2013年にニューヨーク州弁護士資格も得て、当初の予定では、私は2013年秋に日本に戻り、引き続き日本で働く予定でした。



NYC: BrooklynのWythe Hotelからマンハッタンを一望。働けない日々だったので、めちゃくちゃ観光しました。

しかし、転機が訪れます。新たな出会い・・・現在の夫との出会いです。夫は、当時University of Washingtonで脳神経科学の研究をしていました。2012年12月に夫の所属するラボごとColumbia Universityに引っ越したので、私もシアトルでの勤務期間が満了する2013年10月にニューヨークに引っ越し、その後、夫が2014年10月からHarvard Universityで働くことになったので、2014年9月に夫婦でボストンに引っ越してまいりました。


有資格の専門職といえども、急に思い立って米国で働くのは難しいことです。結論として、私は2013年10月から2015年2月まで、米国内で働くことはできませんでした。専門職向けの一般的な非移民労働ビザステータスは、H-1Bというものですが、大学の研究者等に対して発行されるものでない限り、H-1Bには年間発行数の制限があります。一会計年度の発行数を超える申請がある場合は抽選で申請できる人が決まるため、取得できるか否かが運だよりになる側面があります。また、H-1Bは雇用者がスポンサーとなって申請するので、スポンサー探しも必要になります。加えて、当時のシステムでは、米国の会計年度が始まる10月1日から6ヶ月前にあたる4月1日から1週間の間にH-1B申請をしなければ抽選対象にもならないという事情もありました。私は、2013年10月からニューヨークで働くためにスポンサーになってくれる法律事務所を2012年12月頃から探しましたが、そもそもニューヨークに地縁があまりないこと、その年はリーマン・ショックからの景気回復でかなりの申請数が見込まれ、相当の抽選倍率になることが見込まれていたこともあって難航し、また、私が2014年夏頃までしかニューヨークで働けないことが特に大きなネックとなり、期限内に雇用先が決まりませんでした。


Boston:家族で時々訪れるSamuel Adams Brewery。近くにあるJamaica Pondでジョギングしてから、ここでビールを飲むなどしています。

心機一転、ボストンでは新たなビザステータスで職探しを始めます。Harvard Universityでの勤務を開始するにあたって夫はJ-1ビザを取り、私はその配偶者としてJ-2ビザを取りました。J-2ステータスにある配偶者は、労働許可を得れば、自由に働くことができます。この労働許可申請は米国内で行い、多くの場合、4-5ヶ月ほどで労働許可が出ます。労働許可を得た後、日本企業の新規ビジネスの立ち上げ・米国での契約交渉に携わるなどしていましたが、ご縁があって、現在所属している法律事務所の前身であるAugen Law Officesで2015年6月から働くことになりました。その後、出産などのライフイベントもありましたが、夫、勤務先、ベビーシッターの方をはじめとする身近な方々のサポートもあり、現在も概ね安定して勤務することができています。


研究留学に帯同されている配偶者の方の就職の悩みは多いと思います。一例としてご参考になれば幸いです。また、もし個別のご相談があれば、ぜひお力になれればと思います。




2020年6月22日付け大統領布告(PP10052)


さて、COVID-19パンデミックに関連して、米国への渡航規制やビザ発行規制が目まぐるしく変化してきました。近時、最も多くの研究者からご相談を頂いたのは、2020年6月22日付け大統領布告 に関するものです。


この大統領布告は、米国外からの労働力の流入を阻止して米国内の労働者・失業者を保護するなどの理由で出されたもので、


(1)特殊技能職ビザ(H-1B)および熟練・非熟練労働者(H-2B)ならびに帯同する外国人、


(2)交流訪問者(J)のうち、インターン、研修生、教師、キャンプカウンセラー、オペア、または夏季就労プログラムに参加する外国人および帯同する外国人、ならびに


(3)企業内転勤者(L)および帯同する外国人のうち、

(i)この布告の発効時点で米国外に滞在し、

(ii)有効な非移民ビザを有さず、かつ

(iii)この布告の発効時点で有効な、またはこの布告の発行日以降に発行される、米国への渡航を許可するビザ以外の公式渡航文書を有していない外国人について適用があります。


また、この布告には例外が定められており、永住権者、米国人の配偶者または子である外国人、米国の食糧サプライチェーンに不可欠な一時的な労働・サービスを提供する外国人、国務長官や国土安全保障長官らが米国の国益に資すると判断した場合には適用がありません。


この布告に関して研究者の方から頂いたご質問には、次のようなものがありました。

  • これから渡米するためにJビザの発行を受ける必要があります。研究者のJビザにも影響がありますか?

  • 既に米国内に滞在しています。大統領布告の有効期間内にJビザの有効期限が切れますが、Jビザの有効期限後もJステータスでの滞在を継続することはできますか?

  • 既に米国内に滞在しています。大統領布告の有効期間内にH-1Bを更新する必要がありますが、この大統領布告の影響はありますか?

  • 既に米国内に滞在しています。大統領布告の有効期間内に米国内でJからH-1Bにステータスを変更することができますか?

  • 米国内でH-1Bにステータスを変更した後に一時帰国した場合、この大統領布告の影響がありますか?


まず、研究者が通常取得するJビザは、Jビザのうち学術研究者を対象とするものが多く、この大統領布告の対象外です。2020年9月8日 時点で、東京米国大使館および大阪・福岡・札幌の各領事館は、学術研究者を対象とするJビザを含むサービスを再開していますが、通常より待ち時間が長くなることが予想されます。ビザ申請業務の再開状況については、在日米国大使館・領事館のウェブサイトを必ず確認してください。


次に、上述の大統領布告の発効日時点において米国内に滞在していた人は、この大統領布告の対象外です。また、ビザスタンプに記載の有効期限は、そのビザを使用して米国内に入国することができる期限であり、I-94に記載された滞在期限とは一致しないことが多いです。Jステータスの場合の多くは、入国の際Duration of Status(D/S)として入国を許可されており、この意味するところは、DS-2019が有効である期間(およびDS-2019に記載のプログラムを満了した場合にはさらに満了日から30日の猶予期間)の滞在を許可するというものです。ご自身の滞在期限についてご不明のことがあれば、米国税関国境警備局のウェブサイトからI-94を取得してご確認ください。


また、米国内でのH-1Bの更新やH-1Bへのステータス変更も、この大統領布告の対象外です。米国内でH-1Bを更新またはH-1Bにステータスを変更した後に一時帰国した場合、新たにH-1Bビザスタンプを取得して米国に戻る必要があります。上述した通り、日本の米国大使館・領事館の非移民ビザ発行業務は、通常より待ち時間が長くなることが予想されます。短期の一時帰国の場合には、ビザスタンプの取得に障害がある可能性がありますので、ご注意ください。


ご相談をお待ちしています!


研究者の皆様に役立つ法律情報を提供できればと考えていますので、皆様が日常生活で感じた法律に関する疑問や、興味関心のある米国の法律分野など、その他日米の法律に関することについて、随時ご質問を頂ければ幸いです。個別の法律相談がある場合も、ぜひお気軽にお問い合わせください。UJAを通じた法律相談の一部は無料相談としています。



著者略歴

2004年早稲田大学法学部卒業。2006年弁護士登録(59期。現在は一時的に登録抹消中。)。2012年University of Washington School of Law (LLM in Intellectual Law & Policy)卒。長島大野常松法律事務所(2006年〜2015年)、Davis Wright Tremaine LLP(Seattle Office, 2012年〜2013年)、Augen Law Offices(2015年〜2019年)を経て、2019年よりAugen Law Offices P.C.。

事務所HP:www.augenlaw.com


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