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第2回アフリカの元子ども兵が教えてくれた、人間として大切なこと

認定NPO法人テラ・ルネッサンス

創設者・理事 鬼丸 昌也


前回は、私が主宰するNGOテラ・ルネッサンスを設立した経緯について紹介させていただきました。第2回では長年の支援活動の中でも最も印象的だったエピソードについて触れ、我々の目的である『すべての生命が安心して生活できる社会の実現』への挑戦について紹介していこうと思います。



元子ども兵との運命的な出会い


子ども兵とは、武装勢力の支配下に置かれた18歳未満の子どもたちで、世界には、約25万人いるといわれています。私たちは、子ども兵問題に取り組むにあたって、2004年、子ども兵調査のため、当時、外務省の「退避勧告」対象地域であったウガンダ北部に向かいました。そこでは、政府軍と「神の抵抗軍(武装勢力)」が戦闘を続けており、神の抵抗軍は23年間で、約3万6千人の子どもを誘拐し兵士にしていました。


ウガンダ北部で出会った8人の元子ども兵。その中の一人、16歳の元少年兵から聞いた体験談は、未だに心から離れることがありません。


彼は、12歳で神の抵抗軍に誘拐されました。その後、様々な訓練を受け、彼の初陣は、生まれ育った村を襲うことでした。そこで、自らの母親を殺すように、命令されたのです。


当然のことながら、母親の命を奪うことはできないので、代わりに鉈で母親の手を切断するように命じられ、泣く泣く切り落とさざるをえませんでした。このようなトラウマを植え付けられ、彼が脱走するのを防ぐことにつながるのです。


その何年か後、彼は戦闘中に傷つき、戦場に置き去りにされたのです。そこを政府軍に救出され、病院で治療を受けることになります。その病院で、母親と偶然再会することができました。彼は「その時も、母は自分の話をよく聞いてくれたが、以前の様に自分を愛してくれることは無い、それが僕にはわかる」と淋しそうに語ってくれました。

写真1:ウガンダ北部で聞き取り調査をした元子ども兵

なぜ、子ども兵が存在するのでしょうか。その理由は、3つあると、私たちは考えます。一つ目は、子どもは素直なので、洗脳がしやすい。つまり、戦闘上、使い勝手のよい「道具」となるからです。二つ目は、銃などの武器が軽量小型化し子どもでも使えるようになったことが挙げられます。そして、もう一つの理由は、私たち先進国の暮らしと密接な関係があったのです。


一例を紹介すると、ウガンダの隣国、コンゴ民主共和国。テラ・ルネッサンスが最も支援活動に力を入れている国です。そこでは、レア・メタル(希少鉱物)などの資源をめぐる戦闘が続き、1万人を超える18歳未満の子供たちが、奥深いジャングルでの戦闘に従事させられていると言われています。そのような状況は、私たちが日頃、何気なく使っている携帯電話やパソコンなどの電子製品に含まれるレア・メタルが、この悲惨な状況を作り出しているとも言えるのです。


この現実は、私たちに痛み(ショック)を与えてくれます。遠く離れた紛争に、私たちも実は間接的に関係していたなんて、考えたくもないことかもしれません。けれども、これは紛れもない事実であり、傍観できない立場である私たちは、このように考えることにしました。それは、先進国の日常生活の中に、紛争原因が存在するという事実は、むしろ私たちにささやかな「希望」をもたらしてくれるのだということを。なぜなら、その原因は可逆的であり、その習慣さえ変えればもたらされる結果も変化する可能性があるからです。つまり、私たちは、紛争の原因の一部である以上、解決策の一つにもなることができ、日々の暮らしの中で工夫と努力を施すことにより、遠い国における紛争の予防や解決へ導けるかもしれない立場にあるのです。このような気付きと彼らを思い行動することから全てがはじまり、我々は「すべての活動はまず『伝える』ことから」を実践しています。



元子ども兵への取り組み


ウガンダでは、元子ども兵に対して職業訓練やカウンセリングなどの自立支援を行ってきました。たくさんの日本の皆さまの支援(寄附)のお陰で、17年間で約300名の元子ども兵が、我々の支援プログラムを卒業することになりました。

約1年半、テラ・ルネッサンスの施設で職業訓練、識字教育などを修了し、その後は、自らで事業計画を立て、実際に実行するというものです。自立を目的としているので、補助金を支給するのではなく、開業資金は我々が貸し付け、返済をしてもらいます。開業当初は、わずか200円であった月収が、現在では7千円まで上昇しています。ちなみにこの月給は、ウガンダの国家公務員並みの水準なのです。


このような経験から『すべての人に未来をつくりだす能力がある』ことをまさに実感するとともに、地道な活動が長年蓄積された結果、『すべての生命が安心して生活できる社会の実現』の第一歩を踏み出せるという確信に変わりました。



学びを体現する


数々の経験から得たことは、日本での活動にも還元されました。東日本大震災の際、岩手県大槌町の女性被災者に対して、自立支援を行いました。避難所にいる女性は、ふと気が付くと3月11日のことを思い出し非常に心を痛めるため、自分の存在意義の再認識と日常に追われて気を紛らわすために「仕事」が必要でした。彼女たちには、洋裁や縫製の経験者が多く、布巾やコースターを作ることで、刺し子さん(手内職を行う女性たちのこと)のべ180名で、4千万円の収入を得ることができています。


当初、私は、東日本大震災の支援に関わるか正直悩みました。人財も資金も限られている中、国内支援と海外支援の両立はできない。国内で災害が起きれば、「我々を見捨てるのか?お前らは、やはり差別主義者なのか」と思われ、今まで、現場で築き上げたものを全て失うのではないかと、悩んだのです。

 

そんな時、ウガンダの職員から電話がかかってきました。ウガンダでも東日本大震災の映像が放映されており、彼女は、これまで自分たちを支援し続けてくれた日本人のために、何かできることをしたいと思っていると伝えてきてきました。そして、私たちの支援を卒業した元子ども兵らと話し合い、わずか半日で5万円もの寄付金が集まったのです。それは、自立に向けてビジネスに取り組む元子ども兵が、大切な売上の中から自らを削り我々日本人へ捧げてくれたものなのです。前述のとおり、公務員平均月収7千円の国では大変な金額だと、皆さまにもご理解いただけると思います。


電話口で、彼女は、「これで毛布を買ってあげて」と言いました。そして最後に「同じ国に住むあなたたちは、何をするの?」と聞いてきたのです。その言葉で、我々の迷いは吹っ切れました。震災支援に関わる以上、最低でも10年間は、被災地の皆さんと関わり続けるのだと覚悟し、先程の「大槌刺し子」を大槌町の女性たちと展開し続けています。


これまでの支援の経験から、「人種や国を問わず、たとえどんな状況にあったとしても、人間はいつからでも、いつでも、いつまでも変わることができる。そして、人間は他者を思いやることができる存在である」と、支援をした方々から学ぶことができました。だからこそ「一人ひとりの状況に応じて、きめ細かい支援を行うこと。そして、ひとり一人の可能性を大切にする」、それを胸に刻み活動を続けていきます。



著者略歴

鬼丸昌也(おにまるまさや) 認定NPO法人テラ・ルネッサンス理事・創設者。1979年、福岡県生まれ。立命館大学法学部卒。高校在学中にアリヤラトネ博士(サルボダヤ運動創始者/スリランカ)と出逢い、『すべての人に未来をつくりだす能力がある』と教えられる。2001年、初めてカンボジアを訪れ、地雷被害の現状を知り、「すべての活動はまず『伝える』ことから」と講演活動を始める。同年10月、大学在学中に「全ての生命が安心して生活できる社会の実現」をめざす「テラ・ルネッサンス」設立。2002年、(社)日本青年会議所人間力大賞受賞。地雷、子ども兵や平和問題を伝える講演活動は、学校、企業、行政などで年100回以上。遠い国の話を身近に感じさせ、一人ひとりに未来をつくる能力があると訴えかける講演に共感が広がっている。


著書  『ぼくは13 歳 職業、兵士』 合同出版 2005年

『こうして僕は世界を変えるために一歩を踏み出した』 こう書房 2008年

『僕が学んだゼロから始める世界の変え方』 扶桑社 2014年

『平和をつくるを仕事にする』 筑摩書房 2018年


特定非営利活動法人テラ・ルネッサンス 理事長:小川真吾

『すべての生命が安心して生活できる社会の実現』を目的に、2001年に鬼丸昌也によって設立。現在では、カンボジア・ラオスでの地雷や不発弾処理支援、地雷埋設地域の生活再建支援、ウガンダ・コンゴ・ブルンジでの元子ども兵の社会復帰支援を実施。また、日本国内では、平和教育(学校や企業向けの研修)や、岩手県大槌町を中心に、被災者支援活動を展開しています。国連経済社会理事会特殊協議資格NGO。


主な受賞歴 「地球倫理推進賞」(社団法人倫理研究所) 、「地球市民賞」(独立行政法人 国際交流基金)、、「社会貢献者表彰」(公益財団法人 社会貢献支援財団)、「企業価値認定」(一般社団法人企業価値協会)、第4回ジャパンSDGsアワード副本部長(外務大臣)賞 など。


連絡先

京都市下京区五条高倉角堺町21番地 jimukinoueda bldg. 403号室 

認定NPO法人テラ・ルネッサンス

TEL&FAX: 075-741-8786 公式ウェブサイト://www.terra-r.jp


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