認定NPO法人テラ・ルネッサンス
創設者・理事 鬼丸 昌也
前回は、テラ・ルネッサンスの支援活動の中でも最も印象的だったエピソードについてご紹介をしました。今回は、創設20周年を迎えた昨年(2021年)から始めた「平和の担い手」を育む事業から、改めて、私たちが目指すものについてお伝えいたします。
平和な世界を実現するために始めた新たな挑戦
「すべての生命が安心して生活できる社会(世界平和)の実現」を目的に掲げ、2001年にたった一人で設立したテラ・ルネッサンス。
それから約20年。カンボジアでの地雷除去、地雷被害者支援から始まり、ラオスでの不発弾被害地域の生活再建、ウガンダ、コンゴ(民)、ブルンジでの元子ども兵や紛争被害者の自立支援、東日本大震災被災地での復興支援など、多岐にわたる活動を世界6カ国で、約100名の仲間とともに展開しています。
2021年に創設20周年を迎え、世界平和の実現に向けて、さらに活動を進化させることを決意し、いくつかのチャレンジを始めることに。その1つが、グローバル人財育成という、教育事業を始めたことです。
これまでも、講演を通じて、地雷、子ども兵などの社会課題や、その課題を生み出す背景に関心を持ってもらうことを、創設以来、積み重ねてきました。結果、のべ20万人に、講演を聴講していただき、中には、国際協力に進路を決めた学生や、本業を通じた社会課題解決を目指すようになった経営者が現れるなど、一定の成果を収めてきたと自負をしています。
ただ、1回の講演では、どうしても一過性の関わりしかできないため、その関心が育まれず、次第に、関心が薄れてしまう傾向にあることを危惧していました。
そんな中、佐賀県にある東明館学園に、私の友人である荒井優さんが理事長として着任したのです。(佐賀県には、2017年からテラ・ルネッサンスが事務所を開設し、学校等への平和教育などを展開しています。)彼が、校長を務めていた札幌新陽高校での経験を活かし、同学園でも一人ひとりの生徒に寄り添った学校改革を始めていました。
その一環として、同学園は、2020年4月から「探究コース」を設置。社会の課題を解決し、他者に貢献しようとしたり、自ら積極的に成長し、多様な人と協働しながら新たな価値を創り出すという強い意志をもって、未来を生き抜くための持続的な学び、「やりたいことを形にすることができる生徒」を育むことにチャレンジされていたのです。
実践的なグローバル人財育成教育を目指して
そのような背景を持つ荒井さんを始めとする学園関係者との打ち合わせを重ね、平和をつくりだすために、グローバル人財を育成することが重要だという認識で一致しました。
❏ グローバル人財 とは
社会課題とその背景にある社会構造に関心を持ち、世界又は地域の平和構築に資する人財
具体的には、テラ・ルネッサンスが培ってきた国内外での支援・啓発活動の知見を活かし、グローバル人財の育成を目指して、東明館学園と包括連携協定を締結し、共同で授業プログラムの開発・実施を行うことになったのです。これは、テラ・ルネッサンスにとって、創設以来、初めてとなる学校法人と包括的連携協定でした。
包括連携協定後、早速、授業プログラムの策定に入り、探求コース2年生(当時)に対して、1年半の学習プログラムを提供することが決まりました。
まず、このプログラムは、問題解決型学習(Project Based Learning)の手法を取り入れて実施していきます。「ウガンダの元子ども兵の社会復帰支援」、「カンボジアの地雷被害者の自立支援」を題材に、テラ・ルネッサンスの日本国内の職員のみならず、ウガンダ・カンボジアの日本人駐在員、現地スタッフも教育に関わっていくことになりました。
❏PBL とは
問題解決型学習(Project Based Learning)。別名「課題解決型学習」とも呼ばれ、知識の暗記のような受動的な学習ではなく、生徒が自ら問題や課題を発見し解決する能力を養うことを目的とした教育法です。また、正しい答えにたどり着くこと自体が重要ではなく、答えにたどり着くまでの過程(プロセス)における学びそのものが大切であるという学習理論です。
例えば、ウガンダの「元子ども兵の社会復帰プログラム」の活動の中で生じている問題を、東明館の高校生に提示し、その問題を「解決」するためのアプローチや解決策を考えてもらいます。
そして、彼らが考えた支援計画を、実際にウガンダの支援の現場で現地のスタッフが実行。その成果を、また生徒にフィードバックするという、まさに「実践的」な問題解決学習(PBL)であることが画期的だったのです。
さらに、探究コースでは、テラ・ルネッサンス職員が担当する授業(科目)以外の全ての科目も「ウガンダの元子ども兵の社会復帰支援」、「カンボジアの地雷被害者の自立支援」を題材とした「問題解決型学習(Project Based Learning)」の手法で学んできました。(探求コースでは、教師と生徒が自主性をもって授業内容を決定できるのが特色です。)
例えば、英語では、「地雷問題」を学ぶことができる教材を、教師が独自に研究して開発し、授業に活用しています。国語では、「子ども兵」に関する小論文の執筆を、数学や物理・化学の理系科目では、電力不足解消に役立つ「圧力発電」や農業肥料として活用できる「コンポスト」について学んでいました。
このように、生徒たちは「ウガンダの元子ども兵の社会復帰支援」、「カンボジアの地雷被害者の自立支援」という具体的な問題・課題に取り組むことを通して、それぞれの教科で身につけるべき知識や能力をアクティブ・ラーニングの手法で学びました。
生徒たちは、半年間の学びを経て、ウガンダ、カンボジアでの支援計画を立案し、2022年3月16日に行われた全校生徒向けの発表会では、堂々と、その計画をプレゼンしていました。それは決して、恵まれない人々に対する同情から始まる支援計画ではなく、同じ人間として何かできないかという共感から始まる支援計画でした。
彼らの中に、ウガンダやカンボジアの課題を抱えた人々(元子ども兵や地雷被害者)への同情ではなく、共感が育まれたのは、半年間に渡る実践的な「学び」の積み重ねの結果だと感じています。
ここから、一定期間に渡って、社会課題と、その背景にある社会構造を、座学や交流を交えた実践的に「学ぶ」ことによって、社会への関心が生徒(若者)の中に育まれることがわかりました。
最後に、ウガンダの子ども兵、カンボジアの地雷といった、具体的な社会課題を題材にした「学び」を実現できたのは、テラ・ルネッサンスが約20年間、ささやかだけれども支援を積み重ねてきたことによるものだと、実感しています。
今まで、多くの方々の支援によって支えられ、展開させてきた「国内外での支援」と「国内での啓発(講演)活動」に加えて、新たに、「日本と世界の未来を担う若者の人財育成(教育)」を開始することができました。今後は、同学園との授業プログラムを、全国、もしくはテラ・ルネッサンスが活動を展開する台灣、タイといった海外においても、若者たちに提供していきたいと構想しています。
平和への危機が訪れる中、どんな事態になっても「平和をあきらめない」と覚悟し、自ら平和をつくりだすために動く「平和の担い手」を、世界中に育むことが急務であり、それことが世界平和の実現をビジョンに掲げるテラ・ルネッサンスの仕事だと信じているからです。
著者略歴 鬼丸昌也(おにまるまさや)
認定NPO法人テラ・ルネッサンス理事・創設者。197年、福岡県生まれ。立命館大学法学部卒。高校在学中にアリヤラトネ博士(サルボダヤ運動創始者/スリランカ)と出逢い、『すべての人に未来をつくりだす能力がある』と教えられる。2001年、初めてカンボジアを訪れ、地雷被害の現状を知り、「すべての活動はまず『伝える』ことから」と講演活動を始める。同年10月、大学在学中に「全ての生命が安心して生活できる社会の実現」をめざす「テラ・ルネッサンス」設立。2002年、(社)日本青年会議所人間力大賞受賞。地雷、子ども兵や平和問題を伝える講演活動は、学校、企業、行政などで年100回以上。遠い国の話を身近に感じさせ、一人ひとりに未来をつくる能力があると訴えかける講演に共感が広がっている。
著書 『ぼくは13 歳 職業、兵士』 合同出版 200年
『こうして僕は世界を変えるために一歩を踏み出した』 こう書房 200年
『僕が学んだゼロから始める世界の変え方』 扶桑社 2014年
『平和をつくるを仕事にする』 筑摩書房 201年
特定非営利活動法人テラ・ルネッサンス 理事長:小川真吾
『すべての生命が安心して生活できる社会の実現』を目的に、2001年に鬼丸昌也によって設立。現在では、カンボジア・ラオスでの地雷や不発弾処理支援、地雷埋設地域の生活再建支援、ウガンダ・コンゴ・ブルンジでの元子ども兵の社会復帰支援を実施。また、日本国内では、平和教育(学校や企業向けの研修)や、岩手県大槌町を中心に、被災者支援活動を展開しています。国連経済社会理事会特殊協議資格NGO。
主な受賞歴 「地球倫理推進賞」(社団法人倫理研究所) 、「地球市民賞」(独立行政法人 国際交流基金)、、「社会貢献者表彰」(公益財団法人 社会貢献支援財団)、「企業価値認定」(一般社団法人企業価値協会)、第4回ジャパンSDGsアワード副本部長(外務大臣)賞 など。
連絡先
京都市下京区五条高倉角堺町21番地 jimukinoueda bldg. 403号室
認定NPO法人テラ・ルネッサンス
TEL&FAX: 075-741-8786 公式ウェブサイト https://www.terra-r.jp/index.html