NPO法人せいぼ
山田 真人
第12号から続く3回連載の第2回です!今回はNPO法人せいぼのメインである学校給食支援活動についてです。さまざまな相乗効果を持ちながらマラウイの教育、ひいては日本の教育と未来の人材育成に繋がっていく経緯は見事です。ぜひご一読ください。(UJA編集部 鈴木美有紀)
前回の記事では、NPO法人せいぼの経営上のアイデンティティ(ここでは団体の存在意義)といえるDoing Charity by Doing Businessと、その具体的方法として、マラウイで人口の約半分を占める24歳未満の人々と展開する職業訓練センターと、その利益で運営されている幼稚園、さらには山間部へのアウトリーチとして始まった学校給食支援についてお話させていただきました。学校給食は、マラウイの子供達の基礎的栄養素と教育の土台となります。NPO法人せいぼは、その教育の土台を、未来の世界人口を支えるアフリカ大陸に届けると同時に、私たちが住む日本にも、学校の探究活動を通して届けています。
今回は、私たちのアイデンティティとも言える社会的企業としての側面を紹介します。それに加えて、団体の目指す社会像(ビジョン)である「学校給食を通し、全ての子供達を飢餓から救い、質の良い教育を届けられ、チャリティ文化が根付く世の中」を、日本とマラウイの教育という点から深堀りしてご紹介します。この記事を通して、マラウイの未来を考えることが、日本の教育、そして未来の人材育成に繋がると、皆様に少しでも考えて頂ければ幸いです。
(北部の小学校での給食支援の様子)
マラウイの教育におけるNPO法人せいぼの貢献
まず、NPO法人せいぼがマラウイ現地の給食支援パートナーであるSeibo Mariaと実施した2023年度の活動をご紹介しながら、教育との関連をお話していきます。2023年全体で、私たちは現地の幼稚園、小学校の17,784人の子供達に給食を日々届けることができています。主に現地のMothers’ Group(日本でいう母の会)との繫がりが深く、彼らの子供に対するボランティアの働きにも支えられてきました。
(2023年の活動全体は、是非こちらからもご覧ください)
学校給食が教育に重要な理由は二つあります。一つは、子供達が学校に通うきっかけになるということです。現地では小学校は朝7:30~と13:00~で二つに分かれて子供達は登校してきます。幼稚園は日本と同じで午前中のみが多いです。その中で朝食、もしくは昼食が唯一の食事になっている家庭もあります。マラウイの子供の小学校への登録率は98%ですが、実際に通っている人数、つまり通学率のはっきりしたデータは無く、各学校の校長先生が手書きのデータしかないのが現状です。私たちの現地スタッフはそのデータを見つつ、通学率を向上させるため、学校給食支援をしています。すなわち、子供達がお腹が空いて学校に来られないという状態をなくし、教育の機会を増やしているのです。
例えば、2020年3月には政府がコロナウイルスの影響で学校を閉鎖し、しばらく学校給食の助成金が出されない状態が続きました。そんな中で私たちは、学校の前で給食を調理せずに配布し、本来食べるべき食事分を家庭で調理できるように、お母さんたちに渡すことにしました。また、手渡した家庭が実際にそれを使用して、学校に通っている時と同じように子供達が家庭で食事をしているかどうか、確認する家庭訪問も実施しました。(詳しい情報は、是非こちらもご覧ください。)
(給食を届け、家庭の様子や給食の量について記録するマラウイ人スタッフ)
さらに、2024年にマラウイ全体でコレラの拡大があった際も、政府は学校を閉鎖しましたが、私たちは給食の提供を続けました。家庭訪問によって家庭での学習の継続を見るのと同時に、通学時と同様に栄養が取れているかという点も調査しました。
先進国だとあまり意識しませんが、特に0~5歳における栄養状態は脳の成長に影響し、充分な栄養が取れないと教育を受ける上での基礎的な認知機能が育たない可能性があります。マラウイは小学校が8年間あり、途中にある2回の試験に合格しないと留年となります。そのような教育制度と貧困から、小学校を卒業せず、中学にあがることが難しい家庭が多いのです。マラウイは就業面で、農業か、公務員のような高級官僚か、という職業の格差があり、多くのアフリカが直面するように中間層が不足しています。中間層を増やすには、最低限社会で受け入れられ、ビジネスローンを組むことができ、都心でも社会的立場が認められるような高等教育(日本でいう中学と高校)の卒業が必要となります。そうした継続的な学習で必要なのは毎日学校に通う動機、つまり学校給食になります。
二つめはお母さんたちへの影響です。現地の家族構成は、多くの場合父母と子ども2〜3人の約4〜6人家族です。父親の多くが出稼ぎに出てしまい、南アフリカやモザンビークなど、海が近くビジネスの機会が多い場所にいます。そのため母親もフルタイムの仕事をしていたり、それに加えpiece workと呼ばれる小さな現金収入となる仕事もしています。この仕事をする時間を捻出することが、将来新たな収入を生み出すことに繋がります。子供達が学校に行き給食を取ることができると、家庭ではその間に農地から少しでも作物を取り、道端で売ることができます。それによって、現金収入や貯蓄が少しずつ増え、教育や自己投資に使える金銭も増えていきます。こうしたことの繰り返しで、貧困のサイクルから出てもらうことも、給食支援の間接的目的になっています。
(養成を受けたCBCCのお母さん、保育士)
さらにNPO法人せいぼでは、給食の提供に朝来てくれるお母さんたちに対して、場合によって保育士の訓練を受けてもらい免許の取得を支援しています。。特に子供の多いマラウイでは先生が不足し、CBCC(Community Based Childcare Center)では、お母さんたちが先生の代わりをしていることがほとんどです。従って、お母さんたちが自分で保育できるようになることは、本人の仕事となる側面に加えて、マラウイのコミュニティ全体としても重要な投資になります。(詳しくは是非、こちらもご覧ください)
以上のように、子供達の教育に給食支援が大きな役割を持っていること、そしてお母さんへの教育にも繋がっており、コミュニティ全体を支える手段にもなっている点をお話しました。こうした成果から、Seibo Mariaは、2023年10月に政府からマラウイでの教育推進の成果を称えられ、表彰も頂いています。是非、こちらもご覧ください。
NPO法人せいぼと日本の教育
今回の二点目として、上記のマラウイでの給食支援と教育を、日本の教育にどのように生かしているかについてご紹介いたします。再度となりますが、私たちのビジョンは、全ての子供達の教育の質を上げていくことです。それには日本も含まれ、グローバル化の中では世界を多角面から見て、自国以外の人々との繋がりを発見する思考の枠が必要です。もっと簡単な言葉でいえば、物事を横に繋いで新しいアイデアや発想を生み出す水平思考です。以下では、マラウイでのストーリーを、どう日本の学校で生かしているかについて、幼稚園、小学校、中学高等学校の順で見ていきます。
私たちは、幼稚園で講演をさせて頂くこともあります。現在、日本に広がったモンテッソーリ教育では、子供達が自分で自己を教育する力があるとして、できるだけ子供に興味関心を追究させています。NPO法人せいぼでも、地球儀をgoogle earthで見せて、アフリカの地理を示し、マラウイをクローズアップさせながら現地のお母さんと子どもの様子を見せるなどをしています。その結果、関心を持って他の国の位置を指さしたり、お母さんと子供の様子に対して感想を言ってくれる子供も現れます。そこにお母さんが同伴することで、マラウイの子どもと親の絆や、重要な他の人との共同体意識に触れ、自分が日本で享受している豊かさや家族の大事さを再認識してもらえる機会にもなります。そして、これから人口が増えていくアフリカと、自分の子どもが未来で接点を持つ可能性を視野に入れて頂くことで、従来の”貧しい”というイメージではなく、その文化の豊かさを知ってもらい、一緒に世界を良くしていくパートナーとして認識してもらう機会を届けています。(幼稚園の講演などについては、こちらもご覧ください)
次に、小学校になります。小学生になると自分でインターネットで分からないことを調べたり、その国の具体的な社会課題についての感想を述べられるようになってきます。私たちは、給食が1食15円のマラウイと日本を比べることで、少しづつに経済と国際支援についても伝えています。15円は日本ではフーセンガムやラムネが買える値段です。実際にお菓子を見せながら、これがマラウイでは1日学校で過ごすためのエネルギーに変わる給食になることを伝えます。そして、現地支援に繋がる寄付型コーヒーについてもお話します。私たちは、マラウイ現地と取引がある通商会社と提携し、マラウイ産コーヒーを販売し、それを給食支援費用として現地に還元しています。その流れは複数の支援企業に支えられており、その仕組みの一部を話しています。ビジネスの仕組みは、是非前回の記事でもご覧ください。
(コーヒーマーケティングプログラムに参加する小学生)
高校での教育と社会起業家へのヒント
最後に、中学と高校での教育についてです。中高生になると進路に国際支援を考える人や、純粋に世界を知りたいという動機の人など、自分独自のモチベーションで関わってくれるようになります。私たちが主に提供しているのは、探究学習における探究型ソーシャルビジネス版マーケティングになります。上記で述べたようなマラウイでの給食支援の姿とその意味を説明した上で、自分なら何ができるかを探究して頂き、チームに分かれプロジェクト化し、支援企画を立ち上げたり、実際の商品としてのマラウイ産コーヒーや紅茶を使ったイベントやデジタルマーケティング、商品、ブランド開発などの活動を企画し、活動をして頂いています。
上記の中で気を付けている点がいくつかあります。一つ目は、Talentについてです。それぞれの生徒が各々適した役割を感じ自ら動くことで、商品情報をまとめて発信する広報、外部団体に発注し在庫管理をする交渉などの仕事が展開するようになります。そこには、主体的にならないと分からない自らの才能(Talent)と、周りに与える影響への気づきがあります。二つ目は、チームワークです。それぞれの才能が一つになって共通した目的のために動くことで、組織で動き物事を達成する過程を学んでいきます。現在、国際バカロレア機構の教育プログラムの必修履修項目の一つであるCAS(Creativity, Activity, Service)の中でも、こうした協働は重要視されています。
(中高生向けのワークショップの様子)
三つ目は、人の役に立っている、立てるかもしれないという自己肯定感です。これは単純に「わくわくする」というカジュアルな言葉でもいいと思います。人は誰でも自分が新しいことを始め、それが社会に影響を与えるかもしれないと考えると、純粋にわくわくするでしょう。この感覚が、いわゆる社会起業家やソーシャルビジネスを実践する人々の動機の原点になります。実際のプロジェクトの様子は、こちらもご覧ください。
日本とマラウイを繋ぐ教育
以上のように、各学年に合わせてマラウイという国を例に、国際理解、経済理解、そしてそれに基づいた実践活動、さらには起業へのヒントを提供するところまでを実践しています。マラウイでは学校給食が教育に間接的に繋がるという点があり、確かにこの効果は日本では創造しづらいことです。しかし、その違った教育の重要性を理解した上で、日本の学生が学校給食の意義と重要性を再認識し行動できる探究学習や教育があることは、日本の新たな教育の舞台でも重要なことだと思います。
私たちのビジョンは「学校給食を通し、全ての子供達を飢餓から救い、質の良い教育を届け、チャリティ文化が根付く世の中」、これを作っていくことです。そのためのミッションには、学校給食を通した通学率の増加と、日本の子供達への新しい形の教育を提供するという貢献もあります。将来、日本の研究者の皆様にも、マラウイの給食支援による通学率の増加、日本の教育との比例関係を、データでしっかり示し、世の中を変えていける流れを、さらに具体的に示せるように、活動を続けていきます。
著者略歴
山田 真人
東京都北区赤羽出身。英国通信会社のMobellの社員。日本のセールス、マーケティング担当。 東アフリカのマラウイの給食支援を実施する、NPO法人せいぼ理事長。 マラウイコーヒーを通して、現地の給食支援を実施するWarm Hearts Coffee Clubの運営責任者。全国で10校以上の学校法人と提携し、教育事業の一環としても事業を展開し、オンラインではマラウイ、英国などを繋ぎソーシャルビジネスを学べるインターンシップも実施している。2022年12月、公益財団法人社会貢献支援財団より、社会貢献賞を受賞。