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【COVID-19クライシス#6】金澤 宏樹(フランス・ストラスブール大学)

更新日:2021年2月14日

執筆者:金澤 宏樹 執筆日:2020年4月23日 国名:フランス 所属:Institut de Biologie Moléculaire et Cellulaire トピック:海外生活、雇用状況

doi: 10.34536/covid19-007


私はフランスにある研究所IBMCでポスドクをしている金澤宏樹と申します。フランス政府は新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的として2020年3月17日から外出制限の措置をとりました。そこから一か月ほど過ぎた今でもこの措置は継続中です。慣れない土地での非常事態に疲れてきましたが、私は帰国せずにこちらで在宅勤務をすることにしました。本稿ではその結論に至った理由について述べていきたいと思います。あくまでフランスにポスドクとして単身で滞在する場合の話なので、そのあたり踏まえて参考にしていただければ幸いです。

2020年4月現在、フランス生活ちょうど1年です。当初は1年間の滞在を予定していましたが、その間にフェローシップに採用してもらえましたので追加で3年、ありがたいことに計4年フランスでポスドクをすることができます。最初の1年は日本の財団から、あとの3年はフランスの財団から助成していただけることになります。


日本の組織から助成金を受ける場合、個人の口座にそれが振り込まれ、納税等は個人で行うことが一般的です。僕の場合は渡航前に年金を1年分前納し、任意の海外滞在者向け生命保険に加入しました。しかし追加で滞在できることが決定しましたので日本の住民票を抜き、それによって日本への納税義務は無くなり、また、保険証も返還しました。ここまでが2020年3月までに行った手続きです。その後はフランスの財団であるFRMからの助成を受けることになります。


ところで私が所属するIBMCはCNRSに属する研究所のひとつで、CNRSはフランス政府管理下にある研究機関です。FRMはそのCNRSに認識されているフランスの財団であり、そのため助成金を受け取るまでの流れが日本とは異なります。まずCNRSと私の間に雇用契約が発生し、私は期限付きCNRS研究員という身分になります。そしてFRM(財団)からCNRS(雇用主)に助成金が振り込まれ、そこから毎月私個人(被雇用者)に給与という形で助成金が支給されます。このとき助成金すべてが私個人の口座に入ってくるわけではなく、そこからフランスへの税金や年金、保険料などが支払われます。日本と同じ源泉徴収です。


説明が長くなりましたが、要するに現在私は日本の保険証を持たず、フランスの保険証だけを持っている状態です。これがこの状況下で帰国しない理由のひとつです。日本に住民票を戻し、保険証を得ることは実は簡単で、また、在宅勤務ならネット接続できる場所ならどこでも可能だと思います。しかし刻々と変化する各国のコロナ対策とそれに伴う移動制限、移動手段、手続きをする役場の営業状況、帰国後の滞在先の確保など様々な情報を把握し準備する必要があります。しかも帰国のための移動中は感染リスクが高いと想像できます。

保険というものはポスドクという不安定な立場の人種にとって非常に重要なのだとこの頃実感しています。ポスドクと言っても、先の1年間の私のように“助成金は獲得したが雇用関係無しで受け入れてもらうだけ”という立場と、今のような“雇用された立場”とでは受けられる援助が変わります。一部例を挙げると、今の私の場合は健康保険や失業保険が有効です。外出制限の直前、フランス語で書かれた契約書を秘書さんと一緒に眺めたときにこれらの説明を受けましたが、その時に大きな安心感を覚えました。他のポスドクの方々は同じような安心感がありますか?一年前の私と同様、研究費とは別に今後の雇用と給与・保険に不安を抱えるポスドクは多いのではないかと思います。

新型コロナ感染症による都市封鎖やそれに伴う経済の停滞はポスドクのような経済力が乏しい人々にとっては問題になると予想されます。研究者の端くれとしては、新しい方法での研究費の工面や感染症治療薬の開発を目指すべきでしょうが、今のところアイディアはありません。さしあたり自分自身・個人の感染を防ぐことで家族や友人を含めた人々を守り、この大きな感染の波を生きて乗り切ることが第一だと思います。

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