執筆者:渡邊 雄一郎 執筆日:2020年5月12日 国名:アメリカ 所属:パデュー大学 トピック:研究室運営、海外生活
現状
私は2018年10月より日本からの訪問博士研究員という形でパデュー大学化学科(インディアナ州、ウェストラファイエット)にて研究に従事しています。所属研究室の教授は、化学科のSafety Headを務めているため、COVID-19への対応を間近で体感しています。対策に役立てる部分があるかもしれないと思い、共有をさせていただきました。 インディアナ州では3月6日に感染者が報告されました。自宅滞在命令(3月23日)が出て2ヶ月が経過しようとしています。他州に比べて感染拡大が少ないものの、陽性患者は24,000人超(5月11日現在、コロナ検査実施数のうち約2割が陽性に)、日々20−50名程度の死者が出ていると報告されています。 COVID-19への大学の対応(研究室の運営について)
1.除菌関連(Ramp down前) ・3月5日から、化学科にて試薬グレードのアルコールを水で希釈し除菌液を調製。建物の1Fにタンクステーションを設置。詰め替え可能なスプレーボトルに詰めて配布し、ラボや共有エリアの消毒、学生にもボトルを配布し、帰宅時にアパート・寮にて上着や靴を消毒することを推奨。(私も微力ながら設置のボランティアを行わせていただきました。スピード感が非常に早く緊急時のリーダーシップの重要性を肌で感じました。)
・消毒ジェル(College of Pharmacy)を調製し配布。実験共有設備に設置されたほか、$2.5で個人も購入可能に。(スーパーマーケットはどこも品切れだったので助かった学生も多かったと感じています)。 (https://www.purdue.edu/newsroom/purduetoday/releases/2020/Q1/purdue-university-pharmacy-has-hand-sanitizer-available-for-purchase.html) 2.研究関連
2−1. デスクワーク(研究活動停止Ramp down前) ・3月17日から、全研究室・実験室に入れる人数を規定し、ワーキングシフトを決めて活動をしていました。(Social distancing, a reasonable density of one person for every 120 sq. ft. in all spaces) ・普段使用していない授業室や講義室などを開放し、十分に離れた位置で学生がデスクワークに使用できるように配慮。
2−2. ベンチワーク(Ramp down前) ・上述の人数規定に加えて、3月19日から研究室でEssential Personnelを数名決め学部へ提出、必要最低限の実験(ラットやバクテリアの管理、化学的に不安定化合物の処理など)に留め、新規実験は行わず研究を停止。
2−3. 3月25日のRamp down後 ・COVID-19関連の緊急・重要性の高い研究・生物系の必要不可欠な仕事に特殊措置。事前申請(週何日、何時間程度のエフォートで研究する必要が概算して、Essential Personnel証明の書類を提出)と、Social distancing を守った上で2人1組にて上記仕事を許可。 ・化学科では、COVID-19関連装置を除いて、クリーンルームや基礎物性評価装置のある全ての部屋のカードキーがDisableとなり立入禁止に。テクニカルスタッフのみメンテナンス最小限の仕事をしている現状です。 ・週1−2回のグループミーティング(実験系のラボなので、雑誌会や3ヶ月の成果報告ディスカッションを行っています。またPhD candidateに向けて学生作成したプロポーザルOP(original proposition for Oral Candidacy Examination)のプレ練習を行っています。) 3. オンライン授業関連 先生方は大変苦労なされている様子です。知っている限りのことを書かせていただきます。
3−1. 生徒数の多い授業(学部生向け授業など) ブラックボードというオンラインシステムを利用。通常の授業を動画撮影してアップロード。質問・予備スライド系は、掲示板で共有。
3−23-2. 少人数(10-20人)授業
Cisco Webexを使って、ライブ授業。質疑応答、プレゼンテーション試験もオンラインにて。ペーパー試験は、パソコンや快適なネット環境が揃わない生徒を配慮し、制限時間は十分に取るなど工夫。
3−3. 実験系授業(授業の質が問題に) Ramp down前にTAを少人数集めて、オンライン授業用の模擬実験動画を撮り溜めてアップロードしていました。TAは、オンラインで小テスト採点・質問対策できるように仕組みを作成。(これで在宅だけれど給料は支払われる仕組みに)。 日常生活(海外での生活について)
州知事より自宅滞在命令が発令された後、小中高校は休校、スーパーや薬局、ガソリンスタンド、レストラン(テイクアウト)は営業しているものの、ほぼ自宅で過ごす生活になりました(犬の散歩、ウォーキング、ジョギングなどはOK)。マスクの着用が強く推奨され、居住区域の周りにもマスク着用者は徐々に増えてきましたが、未だに着用率は50%いくかどうかというところです。宗教や信仰関連の活動について、密な状況であること、また物のシェアが増えることから注意が必要と感じています(5月は特に多くのイベントがあります。例えば、ラマダーン。昨年末まで共に過ごしたルームメートから、集会に参加できず、精神面で辛い日々を送っていることを伺っています)。当たり前に感じていた日常を失って、精神的に参ってしまうことを防ぐ目的で、ラボメイト・友人・そして家族との絆を大切にすることが重要だと感じています。
私は、生活が崩れた期間はありましたが、現在は、健康的な日々を送ることができています。しかし、共同研究先の教授がCOVID-19で亡くなられたこと、医療の第一線で治療する看護師や製薬を供給する研究者の友人がいることもあり、他人事ではないことを強く感じています(こうしたフロントラインの方々には感謝と尊敬しかありません)。 (https://www.chem.indiana.edu/2020/04/in-memory-of-prof-dennis-g-peters-1937-2020/)。 一日も早く気兼ねなく外に出られる日が来ることを祈っています。初心に帰り、今できることはなにか、そして将来のことを考えることに時間を確保し、このパンデミックを皆で乗り越えたいと考えます。